今回は(も)私が政策立案でお世話になっている救国シンクタンクのレポートから。
内藤陽介の「メルマガで世界を読む」第86回「2026年イラン紛争の総括」
◆◆ 救国シンクタンクメールマガジン 2026/07/02号 ◆◆
2月28日のイスラエルによるハメネイ殺害から始まった一連のイラン紛争は、6月15日、米国とイランの間で和平合意が成立しました。今後も、極地的な小競り合いは続くものと思われますが、大枠としては、紛争は実質的に終結したとみてよいでしょう。
今回の紛争に関しては、一部のメディアで「イランが勝った」あるいは「米国が負けた」などの言説が流布されています。しかし、例えば領土紛争であれば、どちらが領土を獲得/維持したかという明確な勝敗の基準があるのに対して、今回のように、当事者間の思惑が複雑に絡み合っているケースでは、勝敗の評価はどの角度から見るかで大きく異なってきます。したがって、単純に勝敗を論じることにはあまり意味はなく、それよりも、今回の紛争を通じて、関係各国が何を得て何を失ったか、それらを検討することの方が有意義ではないかと思います。
今回の紛争の本質は、昨年(2025年)6月の12日戦争でイランの核開発能力が事実上解体されたことを受け、今度は、革命防衛隊(国軍ではありません)の有する長距離ミサイルと革命防衛隊の軍事力を破壊することで、イランの“脅威”を除くという目標は米国とイスラエルは共有しているものの、2023年以降のガザ紛争の事例から、米国としては、イラン国家の解体に向けて暴走しかねないイスラエルを抑止し、イランという国家の枠組みそのものは維持しようという(=イラン国民によってイスラム共和国体制が崩壊すれば結構なことだが、米国の脅威にならなければ、イスラム共和国体制が続いても構わない)課題を同時にクリアすることにありました‥‥
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(文責:事務局)
レポートの概要は以下の通り。
■ レポートの概要
本レポートは、2026年6月15日に和平合意に達したイラン紛争について、表面的な「勝敗」ではなく、関係各国の「得失」から中東の新たな覇権構造を読み解いたものです。
真の勝者と敗者: ミサイル・軍事力を破壊された強硬派の「革命防衛隊」は大敗。一方で、米国・イスラエルは所期の目的を達成し、国内の邪魔者が消えたイラン政府(現実主義路線)も実質的な勝者となった。最大の敗者は、対イランの防波堤としての価値を失い、完全に蚊帳の外に置かれた「サウジアラビア」。
カタール・UAEの二頭体制: 戦後復興を巡り、カタールが米イラン間の「石油凍結資産」を政治的に管理する一方で、UAEはOPECを脱退。独自に100億ドル規模の復興資金を動かして利権を独占し、イスラエルと共に紅海・インド洋のシーレーン掌握に動いている。
中国への打撃(インド洋進出の阻止): 和平交渉の裏で、米国は仲介役のパキスタンに対し、長年凍結されていた「イラン・パキスタン・ガスパイプライン」の建設を黙認・支援する動きを見せている。これによりパキスタンは中国マネーへの依存から脱却しつつあり、中国主導のグワーダル港拡張計画が見直されるなど、中国の「インド洋進出戦略」に強力なブレーキがかかっている。
【総括】
今回の紛争終結は、サウジアラビアと中国の地政学的影響力が低下し、米国・イスラエル・カタール・UAEが主導する「新しい中東・インド洋の覇権構造」が確定したプロセスである。
■ レポート全文のご案内
この概要は、内藤陽介氏による緻密な情勢分析のほんの一部です。メルマガ本文では、カタールがパキスタンを巻き込んだ泥沼の裏交渉劇や、中国の外交的誤算など、さらに生々しいインテリジェンスが明かされています。
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以前も紹介した関連動画を紹介します。
動画は、2026年5月1日付けでUAE(アラブ首長国連邦)がOPEC(石油輸出国機構)を脱退した理由と、それが中東のパワーバランスにどう影響するかを解説しています。
■ 動画のポイント
1. サウジアラビアがこれまででかい顔をしてこれた理由
サウジがOPECや中東で主導権を握ってこられたのは、単に石油がたくさん採れるからだけではなく、以下の大きな要因(大義名分)があったためです。
「イランの防波堤」としての役割 [07:46]:
1979年のイラン・イスラム革命以降、反米・強硬派となったイランに対抗できるまともな大国がサウジしかいなかった。そのため、米国や湾岸諸国(UAEなど)はサウジを甘やかし、立てざるを得なかった [08:12]。
「アメリカの威を借るサウジ」 [08:24]:
実質的な軍事力や外交の調整能力(イエメン内戦も制圧できず、ガザ紛争の仲介もできない)は低いが、「いざとなったら米国がケツを持ってくれる」という立場を利用して強気な振る舞いをしていた [09:49]。
2. サウジ自爆による「米国・周辺国からの見限り」
サウジの身勝手な行動や失敗が続き、国際的な信頼を失っていきました。
カタール断交の失敗(2017年〜)[11:42]:
サウジがカタールをいじめて断交したが、カタールはイランとパイプを作って生き残り、サウジは手打ちを迫られるという恥ずかしい結果に終わった [12:35]。
コロナ禍での大失敗(2020年)[15:37]:
世界的に原油需要が落ちる中、サウジはロシアと組んで安売り大増産(シェア争い)を強行 [16:05]。米国のトランプ政権の支持基盤である国内エネルギー産業(シェールガスなど)に大打撃を与え、米国を激怒させた(米国はサウジからパトリオットミサイルを一時撤収した) [16:28]。
ロシアへの塩送り(2022年)[18:31]:
ウクライナ侵攻が始まり世界がロシア産原油を締め出す中、サウジはロシアと組んで強引に原油価格を操作し、西側諸国を激怒させた [19:10]。
3. 「イランの脅威の消滅」が決定打に
サウジを甘やかす理由の消滅 [40:48]:
2025〜2026年の一連の紛争で、イランの核開発やミサイル能力は事実上「無力化(破壊)」された。これにより、米国や周辺国にとって「イランの防波堤」としてのサウジの戦略的価値が完全にゼロになった [41:04]。
4. UAEの戦略的OPEC脱退とイスラエルとの同盟
サウジの価値低下とイランの無力化を見越し、先を見通す能力に長けたUAEが動き出しました。
OPEC脱退の真相 [00:41]:
サウジ主導の生産枠に縛られず、独自の経済計画(「We the UAE 2031」で10年以内にGDP倍増を目指す)を推し進め、原油の増産やAI・先端技術などの非石油産業へシフトするための決断(すでにUAEの非石油部門GDPは77.3%に達している) [39:44, 40:22]。
イスラエルとの完全な同盟(防衛・シーレーン掌握)[25:18, 41:43]:
サウジが当てにならないため、UAEは以前から水面下でイスラエルと協力していた(2020年の国交正常化もバイデン政権誕生を見越したUAE独自の防衛策) [26:37]。
現在はイスラエルから「アイアンドーム」の提供も受け、軍事提携を隠さなくなった [41:43]。さらにUAE企業(DPワールド)とイスラエルが組み、ソマリランド(ベルベラ港)などを通じて「紅海・後海の出口」の安全と物流シーレーンを実質的に掌握している [24:40, 25:09]。
米国版「一帯一路(IMEC)」の推進 [34:13]:
インド・中東・欧州を結ぶ経済回廊(IMEC)という中国に対抗する西側の巨大物流ルート構想において、サウジがグズグズしているため、国際社会はサウジ抜きでUAEやクエートをハブとしたルートの具体化へ動いている [36:20, 38:01]。
💡 まとめ(かみくだき)
UAEのOPEC脱退(2026年5月1日)の本質は、単なる「石油の揉め事」ではなく、「中東の親分気取りだったサウジが、これまでの失敗と『イランの無力化』によって完全にアメリカや周辺国から見限られ、代わりに圧倒的な先見の明を持つUAEが、イスラエルとタッグを組んで中東・インド洋の新しい主導権(物流と安全保障)を握った」という歴史的転換点を示しています。
日本のエネルギー安全保障の多くを依存する中東地域の力学が、これほど劇的に、かつ老獪な外交戦術のもとに変化しているという事実は、我が国の安全保障・経済政策を考える上でも決して見過ごすことはできません。
表面的な原油価格の上下やニュースの断片を追うだけでは決して見えてこない、こうした「歴史の転換点」を緻密なインテリジェンス(情勢分析)によって読み解く内藤陽介先生の見事な解説には、いつもながら深く感銘を受けます。
今回ご紹介した動画の内容は、内藤先生による多角的な分析のほんの一部(概要)に過ぎません。
救国シンクタンクの会員限定メールマガジンでは、このUAE脱退の背景にあるパキスタンやカタールを巻き込んだ泥沼の裏交渉劇、中国の「一帯一路(真珠の首飾り戦略)」に強烈なブレーキがかかるプロセスなど、さらに生々しく、鳥肌が立つような世界情勢の裏舞台が日々配信されています。

