今回は、憲政史上初の女性の財務大臣となった片山さつきさんが出演している動画の紹介です。
動画の中心テーマ、夫婦同姓、夫婦別姓についてはこれまで何度かこのブログで取り上げてきました。
まずは、重要ポイント:日本の「夫婦同姓」の意義について。
片山さんの考えに沿って、日本の「夫婦同姓」をざっくり言うとこんな感じです。
- 日本はもともと**「個人」ではなく「家(家族)」を単位として管理してきた社会**で、その歴史と文化が今も戸籍制度に残っている。
- 民法750条(夫婦同姓)は、GHQ占領期でさえ変えられなかったルールであり、外から見ても「日本は家族単位の社会」と理解された結果、残されたと見る。
- 戸籍の「筆頭」は**個人ではなく“家の名前”**であり、「一家で同じ姓を名乗る」ことは、単なる慣習ではなく、日本社会の成り立ちそのものと結びついた仕組みだ、という位置づけ。
- だから片山さんは、
- 仕事で旧姓を使いやすくするなどの運用上の柔軟化には前向きだが、
- 「選択的夫婦別姓」を入口に戸籍廃止や純粋な個人登録制へ進んでいく流れには強い警戒感を持っている。
- まとめると、
夫婦同姓は「男女不平等の名残」だけでなく、日本が「家」を単位に社会を組み立ててきた歴史と文化のコアなので、簡単に壊してはいけない――というのが片山さんの基本的な立場です。
というわけで、たかまつななさんによる、片山さつきさんへのインタビュー動画です。
要約は以下の通り。
片山さつきさんのインタビューの内容を、テーマごとに少し細かめに整理してまとめます。
1.自己紹介・見た目戦略と「残像」の蓄積
- 片山氏は「パステルカラーの服」を政治活動の“戦闘服”として意識的に選んでいる。
- 小泉純一郎政権時代、経産政務官就任直後に「財務省時代みたいな地味スーツはダメ。どこにいるか分からない」と言われ、
パステルピンクや緑、水色など“目立つ色”を着るように助言された。- 有権者や関係者が「会場のどこにいるか、パッと見て分かる」ことを重視。
- メディア露出は多いが、「テレビに出ている回数と選挙の強さは比例しない」と指摘。
- 例として、佐藤正久氏はテレビに最も出ていたが落選してしまった。
- 自身は「2005年郵政選挙の小泉チルドレンの旗頭」としての“残像”が20年かけて国民の記憶に蓄積している、と自己分析。
2.家庭環境と「女性エリート」第一世代の母
- 1959年埼玉県生まれ。
母親は昭和一桁生まれで東京女子大卒の“女性エリート第一世代”。
- 戦時中〜戦後直後、女性が大学に行くこと自体が非常に少なかった時代。
- クラスメイトに、森英恵(デザイナー)、高島屋初の女性役員の石原一子などがいた。
- 父親は数学者で、リーマン幾何学を専門とする大学教授。82歳まで教壇に立っていた。
- 高校・大学進学時、数学は得意だったが、「理系研究者はよほどの天才でないと食べて行くのが大変。文系の方がチャンスがある」と助言され、法学部へ。
- 11歳の時、学習塾のチューターから
「君は将来は大議士(国会議員)になる」
と予言めいた手紙をもらっており、母が保管。後に政治家になってから話題になった。
3.官僚キャリアと財務省を選んだ理由
- 東大法学部在学中、3年生で外交官試験(当時は別枠)に合格し二次まで通過。
- 外務省に進む道もあったが、憲法の担当教授・芦部信喜氏から
「女性で大蔵省に行けるのは君くらいだ。大蔵へ行った方がいい」
と言われ方向転換。- 大蔵省(現・財務省)を選んだ理由:
- 「お金の流れを見ていれば、世の中の全体像が見える」と考えたから。
- フランス国立行政学院(ENA)に留学。
- 広島国税局・立川税務署長・主税局主税課など、女性初のポストを次々と経験。
- 予算も税も分かる数少ない官僚キャリアであり、「今の若手官僚にはそこまで経験してから辞める人はほとんどいない」と現状への危機感も示す。
4.政治家転身:小泉政権と選挙のリアル
- 2005年衆院選(郵政選挙)で静岡7区から初当選。
小泉“チルドレン”の一人として経産大臣政務官に抜擢。
- 当選から1ヶ月も経たないうちに政務官に就任し、国対をきちんと経験しないまま閣僚級ポストに入ったことは「今思えば良くなかった面もある」と自己反省。
- その後、政権交代選挙(2009年)で落選。
- 「当時は『自民党には入れたくない』という空気が支配的だった」と振り返る。
- 2010年参院選で全国比例からトップ当選。
- 全国比例は“非拘束名簿式”であり、「順位でなく、個々人の名前を書いてもらった数」で当落が決まる仕組みを解説。
- 郵便局や大きな業界団体の全面支援がない中、「民主党の政策は危うい」と全国を回って訴えたことが追い風になったと分析。
- 選挙戦術について:
- 各県・各地域に後援会を作り、細かい人間関係のネットワークを重視。
- 「テレビに出ているだけでは勝てない。地道な地方活動が必要」と強調。
- 国政選挙区を“落としたまま”にしないため静岡7区とのつながりも維持し、地方議員らとの信頼のためにも「軽々しく選挙区を移らない」とする考え。
5.衆議院と参議院の違い・参議院の役割
- 衆院:
- 常に解散リスクがあり、ルール運用も比較的ラフ。
- 参院:
- 任期が長く、規則やルールに厳格。
- 各分野の専門家(五輪メダリスト、元知事・市長、元高級官僚など)が多く、「人数は少なくても政策議論は深い」と評価。
- 現在:
- 自身は参院3期目。参議院決算委員長、党金融調査会長などを務める。
- 「税調会長の宮沢氏と金融調査会長の自分が両方参院側にいるのは、実はかなり重い布陣」と自己評価。
6.結婚・離婚・DV体験と、再婚まで
1回目の結婚(見合い結婚)の失敗
- フランス留学から帰国し27歳の頃、周囲から
- 「女性で税務署長コースに乗るなら、結婚していた方がいい」
と強く勧められ、昭和的な空気の中でお見合い結婚。- ところが、
- 遅くまで仕事をすることに夫が理解を示さず、帰宅が遅れると露骨に不機嫌に。
- ほどなくして暴力も始まり、半年もしないうちに家出。
- 約2年で離婚が成立(まだ「DV」という言葉も一般的でなかった時代)。
- 「結婚したこと自体が間違いだった」と振り返り、「苗字を変えたことが悪かったとは思っていない」と整理。
2回目の結婚:旧友との“救済結婚”
- 若い頃からの友人で、ハーバードに留学していた現在の夫と再会。
- 片山氏がフランス、夫がハーバードと別々の大陸に行ったことで連絡が途切れていたが、離婚後に再び縁がつながる。
- 夫の父(丸紅創業者・片山豊氏)が、彼女の離婚歴を承知しつつ
- 「そんな過去があっても構わない。大蔵に勤めたままでいい。できるだけ華やかに結婚式を挙げよう」
と後押し。- 片山氏はこれを「救済結婚」と表現し、35年続いていると語る。
- 夫とは価値観も近く、いわゆる「常識保守」同士。
- 表向きは経営者として政治的発言は控えているが、内心は保守。
- 家でも政治・政策の話をよくする。
苗字について
- 苗字は
- 「友永 →(最初の結婚)別姓 → 友永に戻る →(再婚)片山」
と何度か変わっている。- 現在の「片山」は画数も少なく、選挙で書きやすいため「結果的には良かった」と実務的なメリットも強調。
7.DV・若年女性被害と政策:当事者としての視点
- 女性活躍担当・内閣府特命担当大臣時代、
- DV防止
- DVシェルター支援
- ネットを通じた誘い出し殺人対策
などを担当。- 自身のDV被害経験があり、「当事者にしか分からない恐怖がある」として強い危機感を持って政策に取り組んだ。
- ネットでの“誘い出し殺人”:
- 思春期の女子が「死んだ方がまし」と思い込まされ、殺される事件が相次いだことに強い怒り。
- 支援団体の疲弊にも言及し、DV・性暴力・若年女性保護の継続的な支援が必要と主張。
- 性的違和(トランスジェンダー)をめぐる急増現象についても、
- ここ10年ほどで「DIY的に性別移行を試みる人」がネットの影響で急増していることに懸念を表明。
- 「痩せなきゃキャンペーン」と同様の同調圧力が、若者、とくに女子に作用している可能性を問題視。
8.教育・不登校・“学校内民主主義”への問題意識
- 日本の戦後教育は、大量生産・大量消費社会を支えるための“詰め込み型教育”としては成功したが、
現代の多様化した社会には十分対応できていないと指摘。- 不登校・行きづらさ:
- 現場感覚として「今は1割程度に不登校傾向の子がいる」と聞いている。
- フリースクールやN高など、多様な学び場を支援していく必要がある。
- 自治体によって支援の有無・濃淡が大きく、「偏見なく、学力がつく場なら柔軟に認めていくべき」と主張。
- 自身の経験:
- 公立小学校時代、早く終わった子どもが他の子に教える“横の学び”が自然にあったが、今はそうした余裕が薄れているのではないかと懸念。
- 付属高校では、生徒会長が主導して「制服廃止」を実現。以来、制服は復活していない。
- この体験は「ルールは変えられる」「学校内民主主義は成立しうる」という実感につながっている。
- 高校・生徒会・校則:
- 現在、多くの学校で生徒会長や生徒会が“先生に忖度する役職”になっているという指摘を聞き、危機感。
- 生徒の声が全く運営に反映されない学校では、子どもの自己肯定感・政治参加意識も育たないと懸念。
- コロナとAI教材:
- コロナ禍のオンライン授業やAI教材で、「自分に合ったペースでどんどん進める子は、夏休みだけで学校より先に行ける」現実も見えてきた。
- AI英語学習など、良いツールを活用すれば教育はもっと柔軟にできるはずと評価。
9.選択的夫婦別姓・同性婚・戸籍制度への考え方
高松さんの問題意識
- 高松ななさんは、
- 「自分の苗字を変えたくない」
- パートナーも同様に自分の姓を維持したい
ため、事実婚を選択。- 法的保護や子どものことを考えると、「選択的夫婦別姓を導入してほしい」と考えている。
片山氏の立場
- 自身の人生では、苗字を変えたこと自体は問題視していない。
- 1回目は失敗結婚だったが、それは「相手選びが悪かったのであって、姓を変えたからではない」と整理。
- 2回目は「家業(ファミリービジネス)を継ぐ片山家」に入る必然性があったと理解している。
- 実務的には、
- 職業上の旧姓使用を戸籍にきちんと併記する制度などを拡充するのが現実的と提案。
戸籍制度・家族単位・文化の話
- 民法750条(夫婦同姓)について:
- GHQ占領下でも改正されなかったことが重要だと見る。
- 連合国側の法学者から見ても、日本は「個人単位でなく、家族単位で管理されてきた社会」と理解されたのだろうという解釈。
- 日本社会の特徴:
- 小さな島国で移民が少なく、農耕社会の中で「家」単位・集落単位で暮らしてきた歴史。
- 鎌倉〜室町〜戦国〜江戸260年~近代と、制度を“壊さず改良し続けてきた”稀有な歴史を持つ。
- 戸籍は、寺の過去帳などにルーツがある「日本独自の長期的な人の記録システム」。
- 宗教・世界観の違い:
- フランスでの経験から、西洋社会は「キリスト教的な個人と神の一対一関係」が根底にあり、洗礼名がアイデンティティの中心。
- 日本は、八百万の神・自然崇拝・神道+日本化した仏教という文化で、個人主義宗教の浸透とは根本的に違う。
- そのため、「純粋な個人登録・個人管理の制度」は日本文化に馴染みにくいのではないか、と懐疑的。
リベラル派への警戒
- リベラル系法学者の一部は、「戸籍廃止・個人登録制」を最終目標にしていると指摘。
- 選択的夫婦別姓が、その“入口”として使われている可能性を懸念。
- ある政党は「結婚時に男女の別を戸籍に記載しない」などの案を出しており、
- それは事実上、同性婚と完全に同等の扱いをめざす改変につながりかねないと問題視。
- 片山氏の基本線:
- 文化としての「家族単位」「戸籍」を壊す方向には賛成できない。
- ただし、職業上の旧姓使用など“運用上の柔軟化”は進めるべき。
- 同性婚や選択的夫婦別姓を本格的に導入するなら、「憲法改正を含めた大きな議論」が必要だとする。
政局としての位置づけ
- 右側には、参政党や日本保守党など、より“右の保守政党”が登場。
- 中道〜リベラル側には、立民・維新・国民民主などが存在。
- 自民党は「保守の常識的な妥協案を作り出す政党」として生き残るべきとし、
- 安倍晋三元首相からも「その整理を片山さんに任せたい」と依頼されていたと語る。
- しかし党内は意見が割れ、選択的夫婦別姓・LGBT・同性婚などで統一案をまとめきれないまま来ていることを「党の限界」と自嘲気味に表現。
10.もし総理大臣になったら:安全保障と再分配
安全保障・領土保全
- まず、「経済も含めた安全保障体制の抜本見直し」を行うと断言。
- アメリカとしっかり話し合い、現在の同盟関係と防衛分担を再検討。
- ウクライナ戦争の現実を踏まえ、
- 「力による領土変更はありえない」と信じる人が減っている以上、日本も対処を変えざるを得ないと指摘。
- 国家のトップの仕事は、
- 日本人の生命
- 領土・領海・領空
を守ることだが、現状の体制では「すぐにはできない」と危機感。- 日本が全てを自前で防衛しようとすると、
- 防衛費はGDP比2%では到底足りず、さらに必要になると試算。
- 人材養成の時間も含め、現実的な選択を迫られると認識。
外国人の土地取得規制
- 外国人による土地買収がほぼ自由な現状に強い危機感。
- 「外国人が土地を買い放題になっている状況を、特措法等を用いて一気に制限する」と宣言。
- これを「日本人ファースト」という姿勢の具体的表れと位置づけ、
- ある意味ではトランプ流の“自国民優先”から学ぶ部分もあると明言。
所得再分配・格差是正
- 日本社会は、以前より明らかに「生活が苦しい層」と「そうでない層」に分断されていると指摘。
- 安全保障の再構築と同時に、「大胆な所得再分配」を行う必要があると主張。
- 新たな税源として「巨大SNSプラットフォーム等に超低率の課税を行う」など、発想転換も提案。
- ベーシックインカム的な制度にも言及しつつ、具体形は今後の検討課題とする。
11.インタビュー全体のトーン
- 個人史(家族・結婚・DV・キャリア)と、
日本の制度・文化(戸籍、家族観、宗教、教育、政治制度)を密接に結びつけて語るスタイル。- 「リベラル VS 保守」という表層的対立ではなく、
- 日本社会の歴史的形成過程
- 文化的・宗教的背景
を踏まえて制度をどう変えるか/守るか、という視点を強調。- 一方で、高松ななさんの「別姓で生きたい」「事実婚は法的に不安」という悩みにも共感を示し、
- 「現行制度の枠内でできる柔軟化」と
- 「憲法レベルを含む大改正を伴うような変化」
を区別した上で議論すべきと述べている。
ざっくりまとめると、
片山さつきさんは、「女性官僚・政治家としての実体験(DV含む)」「日本の家族制度・戸籍・教育・安全保障の歴史的経緯」を踏まえつつ、
・文化としての“家族単位・戸籍”は守りつつ運用で柔軟化
・安全保障と再分配の両立で国家への信頼を取り戻す
という“常識保守”的な立ち位置を、かなり立体的に語った回――と言えます。
夫婦別姓については、昨今の選挙においてもそれを強く導入すべきという民意はなさそうです。いたずらに変えることなく、日本独自の社会制度を大事に維持していくべきと考えます。

