今回は、ロシア・ウクライナ戦争について。
2025年10月11日、インターネット番組のニッポンジャーナルで、小泉悠さんの見解。
要約は以下の通り。
要約(詳しめ)
1) ロシア国防費の実態と見通し
- 連邦予算は機密部分が多く、法案に書かれる国防費は「実額の1/2〜1/3」。確定額は年度末の資料でようやく見える。
- 2025年度(暦年)は当初13.4兆ルーブルと言われ、補正込みで最終的に約15兆ルーブルまで膨らんだ可能性。
- 2026年度(来年度)案は12〜13兆ルーブル台と見られ、当初比で0.5〜1兆ルーブル減(円換算で約1.5兆〜1兆円弱の縮小という説明)。
- ただし中期見通しでは「急減させず、当面は現水準を横ばい維持」する方針。青天井の積み増しは限界だが、長期戦前提で“低く長く”持たせる設計。
2) 経済・財政の耐久力
- 2025年は明確に景気減速局面。国防費は頭打ちだが、直ちに破綻・劇的縮減に至るほどではないというトーン。
- 2026年度は少子高齢化・健康寿命延伸など「人口動態対策」を予算の目玉に掲げ、若年層の損耗を国家として問題認識している兆し。
3) 戦争の構図:長期消耗戦
- ロシアは「現状水準の戦費・軍需生産を維持しながら長期化してウクライナを屈服へ」という発想。
- ウクライナ側は「領土の一部を明け渡しつつもギリギリ耐え、西側支援の継続でロシアの継戦能力枯渇を待つ」構図。
- 鍵は西側の支援持久力。米国の対ウ支援は振れ幅が大きく、欧州も国内政治で動揺。チェコの役割低下の可能性は痛手になりうる。
4) 兵力調達:徴兵の役割と実態
- ロシアは年2回徴兵。戦前は年間25万人を下回っていたが、戦後は増勢し30万人規模に回復、さらに増える見込み。
- 建前上、徴兵兵は前線に送らない(2003年以降の原則)。ただし実態は:
- 動員予備力の基盤づくり(全男性に基礎訓練を付与し、招集即応化)
- 無償労働力としての活用(軍内の“労働力”)
- 「志願」の強要(徴兵後に志願兵化させ前線へ)
- 年間30万人規模を訓練・収容・給養しつつ同時に戦争を継続する体制を、この4年で整えてしまった点は侮れないという評価。
5) 損耗の規模と国内反応
- ロシア軍の死者+重傷者は累計で約100万人に達したとの見立て。なお継続で140万人規模=人口の約1%が戦死・重傷のレベルに近づく恐れ。
- それでも大規模な反戦のうねりには至っていない。社会の大きな抗議に発展していない点が特徴。
- 損耗・戦死は地域偏在が大きい。死亡率はモスクワで10万人当たり約11人、ブリヤート共和国では約320人と約30倍の差。貧困地域・地方に過重な負担。
6) 人口・社会への含意
- 若年層の損失を政府も危機と認識し、出生促進や健康寿命延伸に政策シフト。中長期(10〜25年)で国家的損害は甚大との課題感。
- 前線志願は現状「志願」扱いだが、徴兵という義務過程を通じた事実上の誘導が広範に行われていると指摘。
7) まとめの示唆
- ロシアは「国防費の伸びを止めつつも水準は維持」し、兵站・訓練インフラも整備済み。短期の失速より中長期の人口・財政悪化を織り込みながらの持久戦。
- ウクライナは西側支援の持久力次第で戦局が左右。欧州の政治動揺や役割交代はウクライナ側に不利に働きうる。
- 損耗の大きさと地域偏在は、ロシア社会の長期的リスク要因。国家はそれを人口政策で緩和しようとしているが、根本原因(戦争)を止めない限り損失は拡大する、という含意。
戦争は続きそうな印象を受けます。
別の動画も紹介します。
要約は以下の通り。原発リスクとトマホーク供与の方向性に注目といったところです。
小泉悠さんの解説まとめ(ニッポンジャーナル)
1. ロシアのインフラ攻撃は“恒常運用化”
- 開戦初期から電力・通信などを途切れなく攻撃。復旧してもすぐ再破壊される消耗戦。
- NTT松原氏の著作が、ウクライナのインフラ従業員の粘り強い復旧努力を描写。
2. 攻撃能力の転換点:シャヘド量産
- イラン製“シャヘド”の技術導入で、ロシア国内(エラブガ/イジェフスク)に生産拠点。
- 月産約5,000機規模により、3日に1度、数百機のドローンに巡航・弾道ミサイルを重ねる飽和攻撃が常態化。
3. ウクライナの反撃:石油精製所を狙う
- 壊れやすく燃えやすい精製施設を重点打撃し、ロシアのエネルギー収入と供給に痛手。
4. 焦点の「トマホーク供与」
- 射程だけでなく大きな炸薬量が決定的。堅固目標にも有効で、ロシアの戦略的ボトルネック(例:砲身工場)を一時無力化し得る。
- そのためロシアは強く牽制し、「参戦同然」と政治圧力。プーチンはトランプを持ち上げつつ、西側には威嚇的なメッセージ。
5. 「核の季節」:示威演習で圧力強化の可能性
- 秋〜12月に戦略核部隊の大演習が通例。供与阻止へ核恫喝を絡め、エスカレーションを示唆する恐れ。
6. 言葉ににじむ立場:政府ではなく「レジーム」
- ロシアは一貫して「ウクライナ政府」と呼ばず「キーウ(キエフ)レジーム」と表現=正統性の否認。
- 呼称が「政府」に変われば関係改善サインだが、現状その気配なし。
7. 原発リスクの慢性化
- IAEA常駐で建屋の深刻損傷は抑制も、外部電源喪失がたびたび発生。
- 福島の教訓どおり重大リスク。現場の綱渡りで回避しているが、戦闘の激化や補給断で事故リスクは常在。
8. 全体見通し
- ロシア:ドローン量産とミサイル併用でインフラ破壊の持続圧力を強化。
- ウクライナ:後方の高価値・脆弱目標(精製所など)を突く非対称打撃で対抗。
- トマホーク級の供与は戦況を左右し得るため、当面は政治・抑止の駆け引きが続く見込み。
日本としては、北方領土奪還のチャンスをうかがっておくべきところです。
コメント
”実質、ヨーロッパロシアに全人口の約68パーセントが住んでいるが、ヨーロッパロシアは全国土の20パーセントにすぎない。あと32パーセントが住む残りの地域は、過密の都市部に比べて圧倒的に人口密度が低い。その要因の一つが、ロシアの一部の遠隔地における気候の厳しさだ。(ロシアの人口はなぜまばらなのかーロシア・ビヨンド=ロシアの国営通信社であるRIAノーボスチ系のWEBメディア)”
”すでに遠い過去のものと思われがちだが、その理由(人口減少の)はこの第二次世界大戦のトラウマである。いくつかのデータによると1941年から1945年の間にソ連は2,500万~3,000万人もの人を失った(公式な発表では2,660万人)。そして世代の欠落がどの世代にも(およそ25年周期で)繰り返しあらわれているのだ。1940年代初頭に亡くなった人は子供がいなかった。その生まれてこれなかった人の子供の世代も1960年代に欠落したのだ。そして1990年代の世代もまた同様で、ロシアは今、戦争の3回目のエコーに面している。
「ロシアが低出生率国になったのは第二次世界大戦後のことであり、1960年代に出生率が人口維持をするレベルを下回った最初の国になったのも偶然ではない」と、モスクワのロシア国立研究大学経済高等学院の人口統計学研究所長のアナトーリー・ヴィシネフスキー氏は説明する。前回の人口減少は、1990年代の悲惨な経済状況と社会情勢により悪化したが、この時は、20~25年先に親となるべき若者の数が極めて少なくなったのである。すなわち今の人口減少の状況はしばらく続くと見ている。(ロシア・ビヨンドーロシアの人口が(比較的)少なく、しかも減少しているのは何故なのか?)”
ロシアはモスクワとサンクトペテルブルクが主要都市で、ヨーロッパ寄りのところに大半が住んでいるということですね。人口は日本より少し多い1億4600万人ほど。不法占拠している北方領土が長年放ったらかしだったのもこういうことからでしょう。上記の記事の引用は2018年のものですからまた大きな紛争で欠落が起きることで低出生率に拍車がかかるかもしれません。。
よく中国崩壊論も、日本の真っ当な常識で考えてあんな状態は無理だろうというところから端を発していると思っていて、実際は人権の配慮もない独裁国家で生き馬の目を抜く社会では、日本人の発想をどんどん超えた戦いをすることでしょう。
ロシアの反戦のうねりがないのは、一部を除いて権威に従順な民族性によるもので、農奴制などがあった時代からなのでしょう。それは中国にも言えることで中共と民族主義が一体化している限りは中共の権威に従うはず。