今回は(も?)、戦後日本のインテリジェンス研究の第一人者である小谷賢さん(日本大学危機管理学部教授)の動画の紹介です。
今回の動画は、日本陸軍のスパイの実態、です。
サムネイルの左右に顔写真があります。左は藤原岩市、右はゾルゲ、です。
藤原岩市(ふじわら いわいち, 1908–1986)
※「藤原岩一」と誤記されることがあります。
- 旧日本陸軍の情報将校。1941–42年にマレー方面で「F機関(藤原機関)」を組織。
- 英印軍のインド人捕虜を糾合し、モハン・シンらとともに「インド国民軍(INA)」の母体づくりを主導。のちにスバス・チャンドラ・ボースが再編。
- 現地民族主義勢力との連携・宣撫工作で英軍の動揺を誘い、シンガポール攻略後の統治にも関与。
- 戦後は回想記・講演などで対外工作の実相を語った。
リヒャルト・ゾルゲ(Richard Sorge, 1895–1944)
- ソ連(コミンテルン)系の対独・対日スパイ。ドイツ人ジャーナリストを偽装し東京で活動。
- 尾崎秀実らのネットワークを通じ、日本政府・軍中枢の情報を収集。
- ドイツの対ソ開戦(バルバロッサ)計画、日本が対ソ開戦に動かない見込みなどをモスクワへ通報。
- 1941年に特高に逮捕、1944年に巣鴨で処刑。戦後にソ連側で英雄視された。
要約は以下の通り。
イントロ(00:00)
- テーマは「日本陸軍のインテリジェンス」。一般に「作戦重視・情報軽視」のイメージがあるが、実際には当時としては相当な予算と人員を投じていた。
活動の実態(00:44)
- 陸軍は通信傍受・暗号解読、対外情報工作(特務機関)、要員養成(中野学校)、防諜(憲兵・特高)という複線体制で運用。
- 太平洋戦争開戦前後の時期に限れば、暗号解読力は世界でもトップクラスに近い水準と評価。
- ただし戦争開始後、米英は戦時体制で人員・予算を一気に増強。日本は他分野(作戦・兵器)優先で情報部門の拡充が遅れ、後半になるほど暗号戦で劣勢に。
インテリジェンス組織(03:44)
- 中枢は参謀本部 特種情報部(注記のとおり表記は「特種」)。通信傍受と暗号解読を一手に担当。
- 終戦期で本部だけで1,000名超。関東軍・南方軍などの現地部にも同様の部局があり、総計はおよそ3,000名規模と推計。
- 現代の情報本部電波部(約2,300名とされる)と比べても遜色ない陣容だったことが強調される。
- 陸軍の暗号は戦争後半まで強固で、主に解読されていたのは海軍側。一方、日本は米英ソの外交・軍事通信を相当部分解読していたとされる。
特務機関(04:50)
- 満洲・中国大陸・シベリア・南方に数多くの特務機関を設置し、情報収集と積極工作を実施。
- 代表例:F機関(藤原岩一)。マレー作戦で英印軍のインド人兵士に離反・投降を促すプロパガンダを展開。
- 反英のインド人リーダー層を取り込み、少数の機関員(20名規模)で最大10万人近い投降を実現したとするエピソード。
- 戦後、英側は成功の理由を再三追及。藤原は「誠意」を重視したと述べたが、英側には理解されなかったという小話が紹介。
- 英国内ではMI5がインド独立運動の指導者や日本側関係者を継続監視していた背景にも言及。
- フィクション『ジョーカー・ゲーム』の“機関”は、当時の特務機関の姿に比較的近いイメージだと解説。
中野学校(08:31)
- 1940年創設のスパイ養成校。現場が求める実務要員を短期集中で育成。
- 特色は語学偏重:10か月課程のうち英語だけで約250時間。中国語・ロシア語も重視し、年間約50名のロシア語要員を輩出したとされる。
- 心理学、毒薬・爆弾など実技科目もカリキュラムに含む。
- 目を引くのが**「忍術」**の講義(計8時間)。当時“忍者”を継承する人物を招いた講義・実技が行われたとされる(細部は不明)。
防諜(11:51)
- 憲兵隊が部隊内の情報漏洩点検を担当。抜き打ち検査(書類残置の確認、ゴミ箱確認、将校聞き取り等)で、部隊側には敬遠されがち。
- 戦時には本来任務外の一般国民への監視的活動にも関与し、負のイメージが強まったのは主に戦時末期(1945年前後)の状況による。
- 特高警察(現代の公安警察相当)と憲兵(現代の自衛隊情報保全相当)の協働で有名なのがゾルゲ事件(1941)。
- ソ連スパイのリヒャルト・ゾルゲおよび協力者(尾崎秀実ほか日本人多数)を検挙。
- もう一件の主要事案としてコックス事件(ロイター通信日本支部勤務の英国人コックスの機密漏洩容疑)に触れる。取り調べ中に飛び降り自殺を図り、真相は不明のままとされた。
- 事件化された大規模スパイ事件は多くはなく、陸軍内部の情報漏洩も比較的少なかったとの印象。
アウトロ(16:11)
- 総括:日本陸軍は戦前~開戦初期にかけ高度な暗号解読能力と広範な特務・防諜体制を有していたが、総力戦体制で情報部門を急拡大した連合国に後半は後れを取った。
- 一方で、F機関のように少人数で戦果を左右し得る心理・政治工作を成功させた事例もあり、情報の質と運用の巧拙が作戦に与える影響を示す好例となった。
3行サマリー(超要約)
- 日本陸軍は特種情報部を核に、開戦初期まで世界トップ級の暗号解読力と大規模な傍受体制を持っていた。
- F機関など特務機関が心理・離反工作で大成果(インド兵大量投降)を挙げ、中野学校は語学偏重で実務スパイを短期育成。
- 憲兵・特高の防諜で大事件は多くないが、ゾルゲ事件などを検挙。後半は連合国の増強に押され、暗号戦で劣勢に。
高市政権では国家情報局創設構想があります。
【速報】国家情報局創設へ早急に論点整理と首相https://t.co/DbKebvf5JF
— 47NEWS (@47news_official) November 4, 2025
政府が、国内外のインテリジェンス活動の司令塔として、国家情報局の創設を検討していると先日報じられました。戦後の日本が、この分野といかに向き合ってきたのかは、小谷賢『日本インテリジェンス史』を。副題の通り、「旧日本軍から公安、内調、NSCまで」の75年の歩みを照らす一冊です。 pic.twitter.com/SuVjO2jeMe
— 中公新書 (@chukoshinsho) November 3, 2025
日本としては、先の大戦における自らの情報機関の検証、研究はしっかりしてほしいと思います。その点について、生成AIに評価をしてもらいました。
ざっくり言うと「学術・公文書の側での再検証は進む一方、政府の制度設計(国家情報局など)では“歴史評価そのもの”を公式に総括する場は限定的」という状況です。
進んでいる動き(主に研究・公文書の側)
- 防衛研究所(NIDS)による体系的な再検証
戦史研究年報や個別論文で、戦前・戦中の諜報や暗号・防諜を実証的に見直し、現代政策への示唆まで踏み込むものが増えています。例:対ソ諜報の制度・運用の変化を分析し、現在の「偽情報対処」まで接続する論文(2024年)など。(nids.mod.go.jp)- ゾルゲ事件などの“脱神話化”
新たな国内外史料の公開を踏まえて、通説の見直し(たとえば伊藤律端緒説の再検討など)が続いています。NIDSのコメンタリーや研究会記録で最新状況が整理されています。(nids.mod.go.jp)- 公文書のデジタル公開の拡充
国立公文書館・外務省外交史料館・防衛研究所の所蔵資料を統合公開する**アジア歴史資料センター(JACAR)**が継続拡充。戦前の諜報・特務関連原資料の閲覧環境が大きく改善しています。(jacar.go.jp)- 専門資料館での再検証展示
明治大学・登戸研究所資料館では、防諜や極秘機関(ヤマ機関)を扱う企画展(ゾルゲ事件80年)を実施し、一次資料ベースの検証を一般公開。(meiji.ac.jp)制度設計側(国家情報局など)との関係
- 直近の政府方針では、「サイバー対処能力強化」「司令塔の再編」など現在の能力整備が中心で、第二次大戦期の情報機関の“公式総括”を制度化して行う位置づけは目立ちません。もっとも、官邸やNISCの文書では、インテリジェンス機能の強化と司令塔一体化が進み、歴史的教訓を間接的に参照する流れは読めます。(NISC)
- 国家情報局(仮称)の検討自体は、連立合意・官房長官会見などで進行中ですが、そこに「戦前情報機関の評価委員会」のような明示的な歴史検証枠が組み込まれているわけではありません(現時点で報道ベース)。(Reuters Japan)
結論/提案
- 「反省と評価」は、NIDSや大学・資料館+JACARを軸に着実に前進。
- 政策サイドでは、機能強化が先行しており、戦前情報機関の政府主導の包括的レビューはまだ限定的。
- 高市政権の国家情報局構想に合わせ、**NIDS・JACAR・外交史料館の知見を“制度設計に公式接合”する場(常設の歴史検証パネル/教訓反映プロトコル)**を設けるのが実務的には有効だと思います。
- 例:ゾルゲ事件・特務機関・暗号戦の最新研究レビュー→現行のCIRO/NISC/警察・自衛隊情報部門における「教訓の運用規程」化。
私自身も、インテリジェンス、歴史、幅広く学んでいきたいと思います。