今回は日本のインテリジェンスについて、江崎道朗さんの動画を紹介します。
まず、インテリジェンスとは?
政治の文脈でいう「インテリジェンス」とは、
政策判断や国家戦略のために、情報を集め・分析し・評価したうえで提供される「整理済みの知見」
のことです。
単なる「生の情報」ではなく、
- 信頼性のチェック
- 意味づけ・解釈
- 相手の意図や将来の動きの予測
まで含めて、政治指導者が意思決定に使える形にした情報を指します。
というわけで、今回の本題の動画です。2025年11月13日のライブ配信です。
先に結論として伝えるべきメッセージはこちら。
インテリジェンス改革は、「国民を監視する秘密警察づくり」でも「気に食わない勢力を締め上げる道具」でもなく、バラバラな情報を統合・分析して日本の安全を守るための“頭脳(司令塔)をきちんと法の枠内で整える作業だ――ということを、左右の極論に振り回されず冷静に理解してほしい。
要約は以下の通り。
1.番組の出発点:インテリジェンス政策をめぐる「ざわざわ」
- 高市政権発足にあたり、自民党と日本維新の会の政策合意書で
- 国家情報局の創設(内調の格上げ)
- 対外情報庁(日本版CIA構想)
- インテリジェンス要員の養成学校
- スパイ防止法的な関連法整備
などが一気に打ち出された。- これで永田町もメディアも一気にざわつき、
普段あまり付き合いのない新聞社・テレビ局からも
江崎氏に「話を聞かせてほしい」と連絡が来るようになった。- しかし実際に話してみると、
インテリジェンスに関する基本理解やイメージが、驚くほどバラバラで、レベル差も大きい
というのが今回の配信の問題意識。
2.左右両方で起きている「極端な誤解」
左派・メディア側の典型的な誤解
- 質問のされ方はだいたいこう:
- 「高市さんは本格的なスパイ組織を日本につくろうとしているのか?」
- 「日本もいよいよ、外国にスパイを送り込むCIA型の組織を作るのか?」
- イメージの背景には、
- 自衛隊「別班」伝説、
- 公安調査庁を“闇の特務機関”のように描くドラマや映画(例:『新聞記者』)
などのフィクションがある。- ところが江崎氏が、
内閣情報調査室を格上げして、
各省の情報を統合・分析する「司令塔」にする話であって、
新しい“秘密警察”を作る話ではない
と説明すると、
- 「え、そんな話なんですか……」と、明らかにガッカリした反応をされる。
- メディア側は「もっと危なそうな話」を期待している節がある。
一部保守側の危ない「願望」
- 逆に、右側からはこんな声が来る:
- 「戦前の治安維持法や特高警察のような体制を取り戻せるのか」
- 「スパイ防止法や国家情報局ができたら、
日本の“親中派”を全部国外追放できるのでは」- 「中国人・朝鮮人を国籍ベースで一網打尽にできるのでは」 など。
- こうした乱暴な期待は、
実際の構想とかけ離れているだけでなく、
人権侵害・憲法問題を招きかねない危険な発想。- 江崎氏自身は、著作でも配信でも
戦前の治安維持法・特高警察を厳しく批判してきた立場であり、
こうした右側の“復古願望”もきっぱり否定している。
3.国家情報局の実像:何をやる組織なのか
- 国家情報局は、内閣情報調査室(内調)の「格上げ」版という位置づけ。
- 役割の核は「司令塔」としての機能:
- 警察(外事)、公安調査庁、
- 外務省、防衛省・自衛隊、
- 海上保安庁、入管(法務省)、
- 経済産業省 など
各省庁に散らばる情報機能を一元的に束ねる。- 具体的には:
- 各機関が集めている情報が
「正確か?」「偏っていないか?」「何を意味するのか?」を評価・分析する。- そのうえで、日本としての総合判断を示す。
- これまでの内調:
- 各省庁から情報を「集めて配る」役割はあったが、
自前できちんと分析し、総合評価を出す機能が弱かった。- 今回の改革は、
内調を、単なる「情報連絡室」から、
本格的な「インテリジェンス司令塔」に作り替える
という制度改革であって、
「秘密の取締り部隊」を作る話ではない。
4.対外情報庁(日本版CIA)は何をするのか
- 対外情報庁は、いわゆる**「日本版CIA」構想**。
- ただし「今まで何もしていなかったゼロからの出発」ではない。
すでに:
- 外務省の情報統括官組織(現地政府・外務省と連携した情報収集)
- 自衛隊の防衛駐在官(ミリタリーアタッシェ)
- 米軍基地などに派遣される連絡官(リエゾン)
- 防衛省・警察・公安調査庁などが参加する
国際テロ情報収集ユニット(CTUJ)
などが、合法的な枠組みで海外情報収集を行っている。- 対外情報庁とは、
こうしたバラバラの仕組みを一つの組織・法制度のもとに整理・統合する構想。- その際のポイント:
- これまで日本は「合法的活動」にほぼ限定してきた。
- 今後は、国家安全保障上どうしても必要な場合に備え、
二重身分制などの法整備を行い、法の枠内でより踏み込んだ活動も可能にする、
という段階に踏み込む必要がある、という考え方。
5.安倍政権以降の流れ:「箱より人」を先に整えた
- 第1次安倍政権以前から、
- 本格的情報機関を
「警察主導にするか、外務省主導にするか」で綱引きし続け、
結果として**“箱”(組織)そのものが作れなかった**。- 第2次安倍政権で発想を転換:
- まず人材から整える戦略へシフト。
- 防衛駐在官・連絡官などを大幅増員(約3倍)し、
若手のうちから米軍や同盟国軍(豪・韓・フィリピン・インド・英など)と一緒に仕事をさせる。- その過程で、
- 信頼関係を築けるか、
- 分析力があるか、
- 秘密を守れるか(外でペラペラ喋らないか)
といったインテリジェンス適性を見極めてきた。- こうして人材のプールと国際ネットワークが蓄積されてきたので、
今ようやく、国家情報局・対外情報庁という「箱」を作る、次の段階に進める
タイミングになった、という位置づけ。
6.維新・公明・「親中」レッテルとインバウンドの混同
- ネットでは、
- 「維新は橋下さんのせいで親中」
- 「だからインテリジェンス強化とか言っても信用できない」
といった話が流通している。- 江崎氏の整理:
- 橋下氏は大阪都構想の住民投票で公明党の票が必要だったため、
安全保障・国防の話を意識的に控えてきた。
それが「親中」に見えた面はある。- しかし現在の日本維新の会(藤田幹事長・馬場代表など)は、
憲法改正や安全保障に熱心な議員が多数。- さらに:
- 大阪で中国人観光客が多い、
- 中国語メニューの店が多い
といった現象は、菅政権以降、自民党政権が主導してきた「インバウンド重視政策」の結果
であり、「親中」とは別次元の話。- 東京の池袋・湾岸・神保町でも同じ現象が見られることを挙げ、
観光・商売と、対中外交・安全保障への姿勢はきちんと分けて考えるべきだと強調している。- なお、今回ここまで踏み込んだインテリジェンス改革が表に出たのは、
- 公明党ではなく維新と連立したことで、
中国情報の強化に躊躇が少なくなった面がある、
という政治力学にも触れている。
7.台湾危機と「統合分析」の欠如
- 中国・台湾をめぐる緊張が高まる中、日本は:
- 陸自:地上防衛の視点からの情報
- 海自:海上の情報
- 空自:航空情報
- 海保:海上警備情報
- 入管:国内在留中国人のデータ
- 外務省:各国の対中政策
- 経産省:レアアースやサプライチェーンなど経済安保情報
…を、それぞれの“縦割り”で持っている。- しかし、それらをまとめて「全体像」として見る仕組みが弱い。
- レアアースを例にすると:
- 経産省にとっては資源・産業の問題、
- 防衛省にとっては軍事・装備の問題。
- 中国がレアアースをテコに、防衛・海保・経済すべてに圧力をかけてきたとき、
どう対抗するか決めるには、横断的なインテリジェンスが不可欠。- 現在の内閣情報会議は、
- 各省庁が情報を「持ち寄る」場にはなっているが、
- それをもとに本格的な統合分析を行い、戦略的判断を導く水準には達していない、と問題視している。
- 国家情報局の役割は、まさにその**「点の情報を、面・立体として組み立てる」**ことだと説明。
8.国内の中国関連リスクと「情報のサイロ化」
- 日本国内には、多数の中国出身研究者が在籍する大学・研究機関があるが:
- 所管は文科省。
- 一方で、
- 産業スパイ取り締まりは公安調査庁、
- 在留管理は法務省(入管)。
- しかし、これらの間で情報提供義務はなく、縦割りでバラバラ。
- 大学側から見れば、
- 公安に情報を渡して、それが外に漏れれば人権侵害につながるため、
- 「本当に守られる確信がなければ出せない」。
- そこで必要なのが、
- 総理を頂点とする国家情報会議と、
- そのもとで各省庁の情報を一元的に管理・分析する国家情報局。
- ここが「情報を集める責任」「漏洩しない責任」を引き受けることで、
各省も安心して情報を出せるようにする、という構造。- こうした枠組みがあってこそ、
中国関連リスクについて全体像に基づく分析・対策立案が可能になると指摘。
9.まとめ:この配信で江崎氏が一番強調したいこと
- 国家情報局・対外情報庁・スパイ防止法をめぐって、
- 左側は「治安維持法・特高警察の復活」「戦前への逆戻り」と批判材料に使い、
- 右側の一部は「中韓勢力を一掃できる強権国家」を夢想している。
- しかし、それらは**現実の構想とかけ離れた“誤解・極論・願望”**であり、
そのせいで国会も官僚も議論が混乱している。- 実際の狙いは:
- 既に存在するさまざまな情報活動を統合し、
- 法制度・組織・人材・予算・運用・検証を一体で整え、
- 国家安全保障のためのインテリジェンスを、
法の支配のもとで強化すること。- 内調の「格上げ」は一見地味だが、
日本の安全保障インフラにとっては大きな構造改革であり、
本来は派手な“スパイ話”よりも、こちらこそが重要テーマ。- だからこそ:
- 政治家・官僚・メディア・国民に対して、
丁寧な説明と情報発信を続けることが不可欠だと訴えている。- 後半の有料パートでは、
- なぜ内調格上げが大改革なのか、
- 予算・人員・運用・検証をどう組み立てるべきか、
- 本気で対外情報庁を作る際に必要な条件は何か
について、政治家・専門家との議論内容も踏まえ、さらに深掘りしていく──
という流れで前半が締めくくられている、という構成です。
再度、この動画のメッセージを示します。
インテリジェンス改革は、「国民を監視する秘密警察づくり」でも「気に食わない勢力を締め上げる道具」でもなく、バラバラな情報を統合・分析して日本の安全を守るための“頭脳(司令塔)をきちんと法の枠内で整える作業だ――ということを、左右の極論に振り回されず冷静に理解してほしい。
そして、私自身は、極論に振り回されず、国民の皆様に向けて、自身のインテリジェンス能力を駆使しながら、活動していきたいと思います。
コメント
日本は、
アメリカ合衆国国家情報長官(現職)を、
視聴者から、隠そうとする放送局が、
多いですね。