今回はプロジェクトフラについて。
昨年、少しだけ取り上げました。
ざっくり言うと——**プロジェクト・フラ(Project Hula)**は、太平洋戦争末期に米国がソ連の対日参戦を後押しするため、アラスカ・コールドベイでソ連海軍要員を訓練し、艦艇を大量に引き渡した極秘計画です。(ウィキペディア)
- 時期・場所:1945年4月〜9月(終戦後も継続)、アラスカ準州コールドベイで実施。(ウィキペディア, ウィキペディア)
- 規模:ソ連側要員およそ1万2千人を訓練し、約149隻の艦艇を引き渡し(当初計画は最大180隻)。(ウィキペディア, ウィキペディア)
- 狙い:ソ連の南樺太・千島上陸作戦など対日作戦を可能にするための、掃海・上陸・護衛戦力の付与。(ウィキペディア)
- 結果:引き渡し艦艇は樺太・千島作戦に投入され、戦後の北方領土問題の前史としてもしばしば言及されます。(ウィキペディア)
- 一次資料:米海軍歴史センターの公刊研究(Richard A. Russell, Project Hula)が詳細を確認できます。
プロジェクトフラはどういった位置づけなのか?陰謀論の否定は重要です。
結論:はい。代表的な一次資料(“Project HULA: Secret Soviet-American Naval Cooperation in the War Against Japan”, 1997)は、米海軍の公式史機関が自発的に公刊した資料です。リークや訴訟の産物ではありません。
- 出版主体:**米海軍歴史センター(Naval Historical Center/現NHHC)**が「U.S. Navy in the Modern World Series」の1冊として刊行。本文の奥付に米政府印刷局(GPO)での販売案内(ISBN付き)が明記されています。
- 位置づけ:同書は米国・ロシアの公文書館資料にもとづく公刊モノグラフで、シリーズ序文では米海軍の第二次大戦50年記念委員会の協力で制作したことが述べられています。=すなわち公式の歴史研究としての自主公表です。
- 書誌情報:発行はDepartment of the Navy(1997)。大学図書館の目録でも「Naval Historical Center刊」として登録。(ハティトラストデジタルライブラリ)
補足(機密解除の経緯)
- Hula自体は戦時中は厳格な検閲下の秘密計画でした。冷戦期を経て関連記録のアクセスが広がり、1990年代に上記公式モノグラフとしてまとめて公表されています。(ウィキペディア)
- 個別艦の経歴解説などでも「数十年後に機密解除」といった説明が見られ、戦後しばらくは全容が一般に知られていなかったことがうかがえます(例:Cold Bay参加艦“USS Coronado”の解説)。(コロナド歴史協会)
要するに:米政府(海軍)が自ら編集・刊行した“公式史”が、現在よく参照される一次資料です。
このプロジェクトフラに関する教訓をいくつか挙げてみます。
短く要点だけ——日本国民向けの教訓はこのあたりです。
- 短期の共闘は長期の不利益になり得る。
対日戦を急ぐ米国はソ連に艦艇149隻を訓練付きで供与し(Hula)、その力が南樺太・千島での既成事実化に直結した。相手の「戦後の目的」まで読む習慣を。 (Ibiblio, アメリカ合衆国国務省歴史局)- “地味な兵種”が戦局と秩序を決める。
供与の中核は掃海艇・揚陸艇・護衛艦。日本も平時から対機雷戦と上陸・後方支援の実力を地道に維持・監督する重要性。 (Ibiblio)- 無人地帯は拠点化されやすい。
アリューシャンのコールドベイのような辺境が大規模訓練・引渡の拠点になった。北方の港・飛行場・通信の維持は“安全保障インフラ”。 (usni.org)- 秘密の協力は、後年の摩擦の種。
Hulaは戦時中極秘、詳細が公刊整理されるのは数十年後。初期からの記録保存・説明責任・対外発信の主導を社会全体で支えるべき。 (coronadohistory.org, catalog.hathitrust.org)- 終戦直後の“数週間”が、数十年を拘束。
終戦通告後も8月18日の占守島上陸など戦闘が続き、現実の支配が固定化された。危機後の初動(治安・行政・海保/自衛隊プレゼンス)の制度化を当然視する文化を。 (jacar.go.jp)- 装備移転は“出口管理”が肝。
供与艦の返還・精算は長期化し、最終決着は1972年。第三国移転や借用に際しては返還期限・処分方法・検証手段を厳密に。 (Ibiblio)- 同盟は“万能”ではなく“道具”。
米国の協力は常に自国利益の大局判断で動く(Hulaは「北太平洋で米ソの利害を結び付ける」ための政策)。「味方/敵」のラベルに酔わず、常に利害を再点検。 (usni.org)- 史料主権を持つ。
米側は自ら公式モノグラフで歴史叙述を主導。日本も一次史料の迅速な公開・翻刻・教育で議論の土台を主導する体制を、政府・大学・市民で支える。 (catalog.hathitrust.org)一言でまとめると:
「短期の共闘」と「長期の国益」を常に分けて考える癖を社会全体で持ち、地味な基盤力(掃海・上陸・記録・説明責任)を平時から固める。
プロジェクトフラの日本国内での認知度は?
結論:日本での「プロジェクト・フラ」の認知度は、いまも“低い〜限定的”です。
全国規模の世論調査など定量データは見当たりませんが、公開情報の状況からそう判断できます。
- 報道の広がりが限定的
国内で大きく扱ったのは2017年の北海道新聞(1面)など主に地域紙。日本語版Wikipediaでも「全国紙は無視した」との指摘が紹介されています。(北海道新聞デジタル, ウィキペディア)- 用語解説(基礎説明)扱い
毎日新聞は2017年末に「ことば」欄で用語解説を掲載=一般読者に未周知の語として扱われました。(ウィキペディア)- 識者の評価でも“あまり知られていない”
国際ジャーナリストの高橋浩祐氏は「日本では今もよく知られていない」と繰り返し指摘(2018年の論考や2023/2025年の記事)。(webronza.asahi.com, ウィキペディア)- 政治分野での言及は最近化
参院の質問主意書で2024~2025年に相次ぎ取り上げられ、ようやく国会文書に登場し始めた段階です(=周知が広がりつつあるが、まだ新しい話題)。(参議院)要するに、専門家・一部メディア・関係自治体(道東)では共有が進む一方、全国的な一般認知はまだ低い——というのが現状です。
最後に、このプロジェクトフラの認知度が上がるとどうなるのか?ひとつの推測として以下を挙げます。
ざっくり予測です。認知度が上がる=「米ソ協力が千島・南樺太の既成事実化を後押しした」という事実が一般化すると、日本の世論は次の方向に振れやすいです。
1) 安全保障・防衛態勢
- 北方重視の世論が強まる(北海道・オホーツク海の監視/対機雷戦・揚陸輸送の強化支持)。
- 「短期の共闘が長期の不利益を生む」教訓から、装備移転や共同訓練の“出口管理”(最終用途・返還条項)を求める声が増える。
2) 対米観・同盟世論
- 二つの流れが同時に伸びる可能性:
① 自立志向(“同盟は道具。日本の長期利益は自分で守る”)
② 同盟の制度強化志向(“同盟は必要。だからこそ透明性と相互拘束を強めよ”)- 反米が主流化するとは限らないが、「米国も自国利益で動く」現実認識は広がる。
3) 対露姿勢・北方領土
- 強硬・慎重の双方が強化:
① “終戦後の武力進出”認識の共有で**強硬論(譲歩反対・制裁継続)が増える。
② 一方で「武力での現状変更は不可」**という現実論も根強く、平和的解決支持は多数派のまま。4) 歴史・教育・メディア
- 教科書や公共番組でHula・占守島・戦後直後の戦闘の扱い拡大を求める声。
- 公文書の迅速公開・翻刻・英訳など“史料主権”への関心が上がる。
5) 政治的分極のポイント
- 右派:対露抑止・自立防衛・北方インフラを訴える材料に。
- 中道:同盟の透明性・ガバナンス(共同訓練や装備移転の条件設定)を重視。
- 左派:歴史の検証と反戦原則の強調。ただしHulaの「秘密協力」性には批判材料を見出しやすい。
6) リスクと副作用
- 単純な反米物語や陰謀論に流れやすい一部が出る(用語の切り取り)。
- 対露・対米を同時に刺激する外交リスクの過小評価。
→ これを避けるには、一次史料に基づく冷静な説明と政策オプション(何を強化し、何を抑制するか)の具体化が不可欠。7) “世論の行動指標”として現れやすい変化
- 世論調査での**「北の防衛優先」項目の上昇**、対機雷戦・海保/自衛隊の北方配備支持の増加。
- 国会での装備移転・共同訓練の条件条項や公文書公開に関する質疑増。
- 教科書検定での終戦直後の北方事案の記述拡充要望。
一言で:
認知が広がるほど、世論は「同盟=万能」でも「反米」でもなく、地政学リアリズム+透明性強化へ寄り、北方の抑止と史料主権を求める方向に収れんしやすい——そんなイメージです。
コメント
終戦記念日における総理大臣の靖国参拝を妨害しているのは
アメリカだという噂がありますし
憲法改正し真の独立国家になることを強く望みます。