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日本のインテリジェンス総点検:制度・歴史・実務のクロスレビュー(テレ東の動画を題材にして)

今回もインテリジェンスについて。

まずは国際的な情報共有の仕組みについて。5アイズ、9アイズ、14アイズの存在。日本はいずれにも入っておりませんが、その必要性については議論すべきと考えます。

  • Five Eyes(5アイズ)
    米・英・カナダ・豪州・ニュージーランドの5か国の 機密性の高いSIGINT中心の情報共有同盟。最も結束が強く、平時から詳細な情報を相互共有。
  • Nine Eyes(9アイズ)
    5アイズ + デンマーク・フランス・オランダ・ノルウェー
    5アイズほどの深度ではないが、対欧州を含む 拡張的な協力枠
  • Fourteen Eyes(14アイズ)(一般にSSEUR=SIGINT Seniors Europeと関連づけられる)
    9アイズ + ドイツ・ベルギー・イタリア・スペイン・スウェーデン
    欧米の広域SIGINT協力ネット。正式同盟というより 協力枠組みで、共有範囲は5アイズより限定的。

※日本はどれにも非加盟ですが、個別に情報協力を行うことはあります。

5アイズの情報共有が犯人特定につながったとされる案件として、カナダのシーク教徒暗殺事件があります。

カナダのシーク教徒暗殺事件(ニジャール事件)の要点だけ。

  • 何が起きた?
    2023年6月18日、シーク独立運動を支援していたハルディープ・シン・ニジャールが、ブリティッシュコロンビア州サリーのグルドワーラ(寺院)駐車場で射殺。 (CityNews Halifax)
  • カナダの主張(外交危機)
    2023年9月18日、トルドー首相が「インド政府関係者が関与した可能性があるとの信用できる疑い」を議会で表明。これを受けて、カナダとインドは互いに外交官を追放し、インドは一時的にカナダ人向け査証業務を停止。 (Reuters)
  • 捜査の進展
    2024年5月3日、RCMP(連邦警察)がインド国籍の男3人を殺人などで逮捕・起訴。政府関与の有無はなお捜査中。2025年4月には被告らがビデオ出廷。 (Reuters)
  • 情報面のポイント
    カナダ側の疑いは、5アイズなどからの情報共有や在加インド外交官の監視情報に基づくと報じられている。 (AP News)
  • 関連動向(米国)
    別件だが、米司法省は2024年、米国内のシーク活動家殺害計画でインド政府職員関与を訴追(未遂)。インド関与疑惑を巡る国際的懸念を強めた。 (司法省)

※インド政府は一貫して関与を否定。事件は現在も司法手続き・捜査が継続中です。 (Reuters)

さて、今回はテレ東の動画2つを紹介します。いずれも100万回ほど再生されており、国民の関心の高さがうかがえます。

イスラエルがハマスによる突然襲撃された件。

要約は以下の通り。

イスラエル・ハマス戦闘とインテリジェンスの失態

  • イスラエルはハマスからの陸・海・空の全面攻撃を受け、1973年の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)以来の被害規模になっている。
  • 特に驚かれるのは、イスラエルの情報機関(モサド・シンベト・アマンなど)がこの大規模攻撃を事前に探知できず、事実上「ノーガード」で奇襲を許した点。
  • 100人近い市民が人質として拉致され、多数の犠牲者も出ている。
  • 過去のヨム・キプール戦争と同じく「インテリジェンスの大失敗」とされ、イスラエル情報機関の能力に大きな疑問符がついている。

日本の情報機関への問いかけ

  • この事態を踏まえ、日本の情報機関の現状を検証する必要があると問題提起。
  • 日本には米国のようなCIAやNSAに相当する強力な機関がなく、国際的にも5アイズ(米・英・加・豪・NZ)のインテリジェンス連合には参加していない。
  • カナダでのシーク教徒暗殺事件では5アイズ経由の情報が外交問題に発展するなど、情報同盟の重要性が浮き彫りになった。
  • 日本は第2層(9アイズ)、第3層(14アイズ)にも入っておらず、情報共有の枠外に置かれている。

情報の種類と国際的役割

  • 情報機関が扱うインテリジェンスには以下の分類がある:
    • HUMINT(人的情報):スパイ・人脈による収集。
    • SIGINT(通信情報):無線・サイバー空間の傍受。
    • IMINT(画像情報):衛星画像や写真。
    • OSINT(公開情報):新聞や公開資料。
  • インテリジェンスは国家の政策・安全保障に決定的な影響を与える。
  • ウクライナ戦争では米国がロシアの侵攻意図をいち早く公開し、ウクライナ防衛に寄与した例が示された。
  • 日本も中国の台湾侵攻意図や能力を早期に把握できるかどうかで、防衛準備や予算配分が左右される。

歴史的背景と日本の位置づけ

  • 古代から情報の価値は認識されており、旧約聖書のモーセの偵察命令や、米国独立戦争でのワシントンのスパイ活用などが例として挙げられる。
  • 日本も明治期から海軍・陸軍に情報部を設立し、日露戦争でロシア暗号を破るなど実績を残した。
  • しかし第2次大戦期には「パープル暗号」が米国に解読されるなど、劣勢に立たされた歴史がある。

今後の解説の方向性


まとめ

この動画の主眼は、

  1. イスラエルの大規模なインテリジェンス失敗を契機に、
  2. 日本の情報体制が国際的に脆弱である現状を問題提起し、
  3. 歴史的経緯と比較研究を通じて、日本のインテリジェンスのあり方を検討する、
    という流れです。

後編の動画。こちらは日本に関するインテリジェンスを扱った内容です。

動画内容で触れられている1986年の共産党幹部に対する神奈川県警による盗聴事案について、あらかじめの説明。

要点だけ👇

  • 1986年11月27日、日本共産党国際部長だった緒方靖夫氏の自宅電話の違法盗聴が発覚。捜査で、神奈川県警公安部の警察官が1985年ごろから盗聴していた事実が判明しました。(ウィキペディア)
  • この過程で、公安警察の非合法工作を統括していた秘密部署(警察大学校内拠点)「サクラ」(通称「サ」、公安四係)が存在すると報じられ、警察庁・県警幹部の辞任や人事異動に発展しました。(ウィキペディア)
  • 事件露見後、「サクラ」は組織改編・名称変更を受け、1991年に「チヨダ」、2000年ごろには「ゼロ」と改称(実質的に“サ”は廃止・改称)されたとされています。(ウィキペディア)
  • 司法面では、最高裁は1989年に「職権濫用罪は不成立」としつつ盗聴事実自体は認定。1997年の東京高裁は国・神奈川県に賠償を命じました。(ウィキペディア)
  • 弁護士会の資料なども、各県警に「4係/サクラ」のような盗聴・盗撮を担う専門部署があった事実を整理しています。(jlaf.jp)

(まとめ)— 1986年の緒方宅盗聴露見で、公安の秘密部署「サ(サクラ)」の存在が表面化し、幹部の引責・組織の実質解体と改称を経て現在の「ゼロ」に至った、という位置づけです。(ウィキペディア)

もうひとつ、動画内容で触れられている、在外公館の外交公電へのサードパーティールールによる制約について。

  • サードパーティ・ルールって?
    「Aさんから秘密を教えてもらったら、Aさんの許可なしに他の人へ回しちゃダメ」という約束ごと。情報の“出どころ(オリジネーター)”が配布先をコントロールします。
  • なぜ“外交公電”だと面倒になるの?
    大使館→外務本省へ送る外交公電は、仕組み上、関係部署に自動的・広範囲に回りやすい通信網。
    すると、元ネタ提供者から見ると「え、その人たちにも共有されるの?」=第三者共有になりやすい。
  • 何が起きる?
    • 共有するたびに提供者の許可取りが必要(「誰まで見せていい?」の確認が増える)。
    • 手続きが増えてスピードが落ちる
    • 勝手に広がると信用失墜情報源の危険につながる。
  • じゃあどうするのが良い?
    • 限定配布の専用回線や、閲覧者を最小限に絞った機関専用の伝達経路を使う。
    • 文書に「この先は共有禁止」等の**配布制限(注意書き)**を厳密に付ける。
  • 一言で
    外交公電は“便利だけど広がりがち”。サードパーティ・ルールの世界では、広がりやすい経路=許可と管理が増えるので、もっと絞った伝達のほうが扱いやすい、という話です。

というわけで、後編の動画です。

要約は以下の通り。紹介されている参考文献は、私自身も時間を見つけて目を通しておきたいと思います。


全体像


イスラエル情勢のアップデート(教訓)

  • ハマスはまずドローンでイスラエル部隊の通信インフラを破壊、監視カメラ等のリモートセンシングを「盲目化」。
  • アイアンドームの処理能力を超える同時多発のロケット集中投射で混乱を誘発し、地上侵入。
  • 作戦計画は幹部の極少数に限定、会話では「戦う意思はない」等の欺瞞を混ぜて盗聴対策。
    → 情報優勢の前提(監視・傍受・探知)を“初動で潰す”複合手段が要諦。秘匿・欺瞞・飽和攻撃の組み合わせが機能した。

日本のインテリジェンス・コミュニティの中核

まずは近現代の「核となる三者」を押さえる:

  1. 公安警察(警察庁 警備局/各都道府県警 警備部)
  2. 公安調査庁(法務省、トップは検察官)
  3. 防衛省情報本部(防衛省・自衛隊の軍事インテリジェンス)
    + 内閣情報調査室(内調)、外務省・財務省・金融庁などが広義のコミュニティを構成。

1) 公安警察(警察系が“ハブ”になってきた理由と光と影)

  • 構成:警察庁警備局(中枢)と都道府県警の警備部・外事。
  • 旧来の内部区分:左翼・右翼・外事・盗聴(コードネーム「サ」)等。1986年の緒方靖夫(日本共産党)盗聴露見で「サ」は廃止とされ、後継(治対→ゼロ等)の存在が指摘される。
  • 警察主導が続いた背景
    • 戦前の軍部暴走への反省から「軍事(自衛隊)を中枢に置かない」政治判断。
    • 国内治安分野の継続的な実績、人材育成能力、政府各部局への人材“出向”で統合力を発揮。
  • 副作用・反発
    • 外務省(対外情報を一元化したい)、自衛隊(軍事インテリジェンスの軽視に不満)からの抵抗。
    • 町村官房長官ら、警察支配への批判(国際政治・対外活動の経験乏しさ)。

評価:小谷氏の見立てでは、結果的に“バラバラになりがちな各省”をまとめて次代につないだ功績もある。


2) 公安調査庁(法務省系の「調査専業」機関)

  • 警察とは別系統。捜査・逮捕の権限を軸とする警察と異なり、調査特化
  • 1964年東京五輪で、東側から来日する選手団に紛れる情報機関要員を徹底監視。空港到着時点から追尾し、日本側協力者(政治家・弁護士等)との接触実態を把握—国内のスパイ網の基礎情報を蓄積。
  • 省庁間の摩擦
    • 警察との縄張り衝突に加え、海外活動では外務省と緊張(偽名・偽装旅券が使えない、緑パスポートの身分露出、在外公館の外交公電に頼ると「サードパーティ・ルール」上の制約が増える等)。
  • 事例:2001年・金正男の成田事件
    • 英情報に基づく入国情報→成田で偽造旅券発覚・拘束。
    • 退去か監視かで省庁間対立:外務省・入管は退去を主張、警察は拘束や“泳がせ監視”を主張。最終的に退去に。
    • 調査庁としては情報収集機会の逸失—日本の対外 HUMINT/CI 能力の限界を象徴。

ボトルネック:独自の安全な通信ライン不足、外務省主導の外交通信に依存→秘密保全とスピードの両立が難しい。


3) 防衛省情報本部(軍事インテリジェンス)

  • 陸自幕僚監部第2部(G-2)を中心に、特別勤務班=「別班」(前編で解説)に加え、**「別室」**の存在が指摘される。
  • 別室:通信傍受などのSIGINT専業とされ、別班よりも機密性・実効性が高い“謎の組織”。(小谷氏の見立て)
  • 含意:日本の軍事インテリジェンスは、法・政治の制約下でもSIGINT偏重で能力を積み上げてきた可能性。

「失敗は改革を生む」— 戦後の苦い経験と制度化

  • 度重なる失敗・挫折(国内過激派、拉致事案、対外 HUMINT の脆弱さ、省庁縦割り)を踏まえ、10年前に特定秘密保護法が成立。
  • 目的:機微情報の保全、国際共有の「信用」を得る前提整備。
  • ただし、省庁間の情報共有・指揮統制・海外活動法制は依然として課題。外交一元化原則と情報機関の実務要請の齟齬も未解決。

日本の構造的課題(動画の示唆)

  1. 海外活動の法制・運用:偽装身分・偽装旅券が使えない/在外通信の独自回線不足。
  2. サードパーティ・ルールへの適応:外務省経由の公電依存が情報源保護と衝突。
  3. 省庁間の縦割り・縄張り:警察主導の統合は機能面の安定を生んだ一方、外務・防衛との摩擦が継続。
  4. HUMINT の薄さと SIGINT 依存:別室などの強化は進むが、人間情報面の蓄積に弱点。
  5. 民主的統制と機動性の両立:監視・統制を保ちつつ、初動で敵の“目と耳”を潰す現代型作戦に対抗するための迅速性が必要。

まとめ(メッセージ)

  • イスラエル事案の教訓は、通信・監視の“初動潰し”に耐える冗長性と代替手段、欺瞞に揺さぶられない分析体制の重要性。
  • 日本は、警察中心の統合という歴史的帰結で一定の秩序を保ってきたが、対外 HUMINT・法制度・在外通信インフラ・省庁間調整に課題。
  • 「失敗→改革」のサイクルを前提に、**特定秘密保護法の次の一手(越境法制・情報ライン整備・指揮統制の明確化・人材育成)**が不可欠。
  • 参考文献群(サミュエルズ/小谷/北村)で提示される論点を手がかりに、**“日本版・持続可能なインテリジェンス体制”**をどう設計するかが焦点。

日常生活では意識することが少ない分野ではありますが、くにまもりには極めて重要な分野です。自分なりに知見を深めていければと思います。

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