今回は減税を進めるための議論の材料について。
インフルエンサーの林尚弘社長と渡瀬裕哉さんの対談動画を取り上げます。
まず1本目。
要約は以下の通り。
概要(全体像)
- 司会(林氏)とゲスト(渡瀬氏)が、「減税」「財務省」「予算編成」「規制改革」「与野党の力量(マーケティング含む)」を縦横に議論。
- 渡瀬氏の主張の芯は「国会の本来機能=減税と行政改革」「政治家の放漫支出が財務省の増税を招く」「まず“減税を先に決める”設計に制度運用を戻せ」という三点。
- 与党/官僚批判にとどまらず、「最大の問題は“野党の弱さ(政策設計とマーケティングの貧弱さ)”」と位置づけるのが特徴。
1) 国会の役割=「減税と行政改革」に立ち返れ
- 日本最初の帝国議会の第一テーマは「減税と歳出削減(行政改革)」だったという歴史観を提示。
- 「本来、国会は『税金を安くする/官のムダ遣いを止める』場所。ところが今は官僚と一体で“増税+歳出拡大”を進めている。これなら議会の意味がない」という問題提起。
2) 財務省レクの中身と評価
- 林氏の報告
- 特別会計は“裏帳簿”ではなく国会で審議・公開済み。印象操作はメディア側という財務省説明。
- 「減税・歳出削減・国債発行が難しい最大理由は“金利上昇リスク”」という論理。コロナ期に100兆円規模の財政出動に耐えた事実はあるが、リスクをわざわざ取りに行くのは避けるべき、という姿勢。
- 渡瀬氏の補足・批判
- 省庁の中長期見通し(税収弾性値や社会保障費見通し等)は精度・一貫性に疑義。財務省は税収見通し“原則1年(長くて3年)”、弾性値も実態に合っていない時期があった。
- それでも「財務省は本来“歳出を絞りたい側”」で、政治家がバラマキを求めるから“後で増税で帳尻”という循環が続く、と位置づけ。
- 「政治家が『絶対に増税しない』と決めれば、財務省は“真面目に歳出削減する”と答えた」経験談を提示。
3) “政治家が元凶”論:増税は政治家の支出拡大の帰結
- 「財務省が悪い」の通説に対し、渡瀬氏は「主因は政治家」。選挙都合の高齢者向け厚遇・各業界向け配分が歳出を常に押し上げ、結果として増税へ。
- 消費税増税で個人消費が大きく落ちた事実にも触れつつ、原因は「政治が配り続ける→財務省が理屈を付けて財源手当」という構図だとする。
4) 減税の“正しい段取り”:税調を先、骨太に組み込む
- 予算編成カレンダーを具体化:
- 4月新年度開始 → 6月「骨太の方針」 → 8月末概算要求締切 → 11–12月与党税調で微調整。
- 現状は「11–12月の税調で小手先の税いじり→『財源が足りない』で終わる」運用。
- あるべきは「年度前半(4〜6月)に“減税の基本方針”を先に決め、骨太に織り込む→その枠内で各省が概算要求」という順番。補正頼みの“後追い”でなく“設計段階から”減税を入れるべき。
5) 規制と補助金の“岩盤”が生産性を奪う
- 例:タクシー業界・日本交通、ライドシェア解禁。
- 規制保護+補助金漬けが競争を殺し生産性と賃金を押し下げ、結果として税収も伸びない。
- アメリカでは「ライドシェア容認で、何人の所得がどれだけ増えるか」まで定量で示す。日本の野党(例:維新)の主張は“データ提示が弱く、説得力と広がりに欠ける”と批判。
- 処方箋:補助金を絞る・規制を外す→政治的抵抗(農協・医師会・業界団体)が出るが、そこでこそ政治の統制力が問われる。だからこそ「まず増税しないと決め“老(既得権)を兵糧攻め”にする」のが有効だと主張。
6) 社会保障:窓口負担の設計を見直せ
- 歴史的には国保の窓口負担は“5割”で始まったが、選挙目当ての“割引”が積み上がって現在の低負担へ。
- 医療経済の実証研究でも、自己負担が下がると受診回数が増える傾向(モラルハザード)を指摘。
- 「3割は“ぬるい”。5割主張で落としどころが3割になるのが交渉の現実」という“アンカリング”の政治技術論も提示。
7) 無駄の具体例提示
- 男女共同参画関連のKPI(「会議参加グループ数」等)や、埼玉・嵐山の国立女性会館(年6億円規模)を例示し、「民間施設で代替可能な箱モノ」など、見直し余地は各所にあると指摘。
8) 与野党と“マーケティング”能力
- 自民党:利害団体や地縁血縁ネットワークを押さえた“現実的マーケティング”が強み。結果として「減税は商品ラインにない」党になっている。
- 野党:政策設計と“市場(有権者)研究”が弱く、無党派(30〜40%)を取りに行く努力・データ訴求・草の根組織化が不足。だから勝てない。
- 国民民主は“雑でも相対的に頑張っている”評価。維新は大阪ローカルでは強いが、国政での“プロダクトの見せ方(定量・設計)”が弱い。
- 立憲民主党は“信頼できない”(野田氏の過去の増税)うえ、事業仕分けで「無駄は6,000億しかない」と言ったのは「嘘か、シロアリに負けただけ」と切り捨て。
9) 林氏の疑問/渡瀬氏の応答(要点)
- Q:自民は“減税しなくても勝てる”からやらないのでは?
→ A:その通り。だから“野党が悪い”。野党がプロダクト(減税+規制改革の設計)とマーケを強化し、無党派を獲りに行けば均衡は崩せる。- Q:都道府県財政(例:ガソリン税減税で穴があく)は?
→ A:「全体の2〜3%なら調整できる。できないなら経営能力の問題」。また、制度手順を踏めば1年で実行可能。
10) 結論(渡瀬流“実務ロードマップ”)
- 「増税はしない」を政治判断で先に確定。
- 年度前半に“減税設計(税調)→骨太”に組み込み、概算要求の前提にする。
- 同時に規制緩和・補助金見直し・社会保障の自己負担設計(高齢者含む)を再設計。
- 省庁の見通しモデル(税収弾性・社会保障推計)を総点検し、数値前提をアップデート。
- 与野党ともに、効果(誰がどれだけ得するか)を定量で示すマーケティングを徹底。無党派30〜40%を取りに行く。
ハイライト(一言要旨)
- 「国会の“原点”は減税と行政改革。政治がカネを配り続ける限り、財務省は“後で増税”で埋める。まず“増税しない”を決め、設計段階(骨太)から減税を組み込め。勝てない本丸は“野党の弱さ”——政策設計とマーケが足りない。」
キー論点の抜粋(箇条書き)
- 国会の存在理由=減税+行政改革(歴史的原点への回帰)。
- 財務省は本質的に「歳出抑制」側。増税は政治の散財の帰結。
- 減税は手順が命:税調→骨太→概算要求の順で“先に枠を取る”。
- 規制・補助金の既得権(タクシー、農協、医師会…)は“老の兵糧攻め(=増税しない宣言)”で力をそぐ。
- 社会保障の自己負担は、モラルハザード考慮で再設計(“5割主張→3割落とし”の交渉術)。
- 無駄支出は具体例ベースで整理・削減(箱モノ・KPI妥当性)。
- 与党は現実的マーケで強い/野党は定量訴求と草の根が弱い。
- 無党派30〜40%に“データで利益を示す”のが勝ち筋。
2本目。
要約は以下の通り。
概要(今回の続きで足された芯)
- 渡瀬氏の立場は一貫して「野党が弱い(政策設計・マーケティング・組織運営)」ことが最大ボトルネック。
- 政党交付金の使い方・選挙制度運用・無党派の取り込み方など“運営面”に踏み込んだ具体論が増え、終盤は日銀の『経済・物価情勢の展望』を根拠に「インフレ鈍化見通し→減税は可能」と主張。
1) 「野党が悪い」論の中身(運営・資金・マーケ)
- 交付金や政策秘書給与など“公金”で活動している以上、政策研究とマーケティングに一定割合を義務化すべき(ドイツでは割合を定める例があると指摘)。
- 日本の政党交付金は、チラシ・CM・議員事務所経費など“選挙活動”に偏重。政策の質を上げる投資が乏しい。
- SNS分析・PR最適化など、与党は一定の“武装”をしているが、野党はデータ提示・定量説得・草の根組織化が弱い。
2) 「割れている野党」問題と制度論
- 小選挙区は本来“割れにくくする”ための制度だが、比例代表・交付金の存在が“どんぐりの背比べ”を温存。
- 政党が互いを凌駕するためのイノベーション(政策開発・マーケ・組織戦)が欠落し、常に分散したまま。
3) 組織運営で評価する“賛成党”の事例(政策賛否とは別)
- 全国ほぼ全小選挙区に支部を整備、地方議員も増やしている点を高評価(政策内容の是非とは切り分け)。
- 将来的な予備選連携・合併局面でも支部網が強み(例:維新と予備選をすれば大阪外では賛成党が競り勝つ可能性に言及)。
- 要するに、「小さくても経営=組織運営ができている政党」は伸びるという運営論。
4) 減税・インフレ・金利に関する“反論設計”
- 「今減税するとインフレ・金利が大変」という与党・財務省側の主張に対し、**日銀『経済・物価情勢の展望』(2025/5/1公表)**を示し反論。
- 見通し:2025年度=CPI“2%台前半” → 2026年度=“1%台後半”、リスクバランスは下振れ優位(物価・経済とも)=むしろ鈍化見通し。
- 長期金利上昇は「減税期待」ではなく、日銀の買入れ運用見直し観測の影響が主。日銀が買えば金利は再び下がり得るという整理。
- 結論:物価鈍化見通しの下で、減税は十分可能。
さらに、社会保障の見直し(自己負担・給付設計)に踏み込むべきで、増税論は“逃げ”。
5) 社会保障の “聖域化” に踏み込むべき
- 高齢者中心の政治が**自己負担低下→受診増(モラルハザード)**の構造を放置。
- 増税の前に社会保障改革(負担の再設計、KPIの妥当化、箱モノ・補助金の選別)を求める。
- 現職で「社会保障カット」をはっきり言う政治家は乏しい(具体名に触れつつ、投票行動の整合性も問う)。
6) 「全部ダメに聞こえる」への応答と、実務目標のミニマム
- 渡瀬氏:特定政党の“ファンクラブ”ではない。**「野党第一党に“増税反対”を言わせ続ける」**のが最低限の実務目標。
- 過去、野党(例:3党合意)が増税側についた局面では増税が実現。
- 野党が一貫して増税反対を掲げると、与党は“選挙に負けたくない”ため増税を通しにくい。
- つまり“短期の現実策”は:野党を“減税 or 少なくとも増税反対”で固める世論・運動設計。
7) 林氏とのやり取り(編集・伝え方の工夫)
- 林氏:主張は腑に落ちるが「長く・速く・複合的」で伝わりにくい。短尺・要点化を提案。
- 渡瀬氏:SNSでは“あえて過激”に言い切る面もあるが、本質は「全増税反対+社会保障再設計+運営能力のある野党を育てる」。
8) まとめ(この続き回の要点)
- 交付金は政策研究・マーケに投資せよ(割合の義務化も検討)。
- 野党の“組織運営”が弱い。支部網・草の根・データ提示で有権者利益を定量化。
- 小選挙区×比例×交付金が“微温的分散”を温存。予備選・合併も選択肢。
- 日銀見通しは物価鈍化。金利は買入れ運用の影響が主。減税の余地あり。
- 社会保障(自己負担・給付設計)を再設計。増税先行は“逃げ”。
- 当面の実務目標:「野党一丸の増税反対」状態を維持して、与党の増税を抑止。
一言ハイライト
「増税の歯止めは“野党の運営能力”から。政策とマーケに投資し、無党派をデータで取りに行け。日銀見通しは物価鈍化—今こそ“減税+社会保障再設計”を設計段階から。」
これらを踏まえて、減税をすすめるための教訓を以下にまとめます。
減税を進めるための教訓(簡潔版)
- 国会の原点は「減税と行政改革」。その使命を取り戻す。
- 「増税しない」を最初に政治判断として決める。
- 減税は年度の初期段階(骨太の方針前)に方針化して枠を取る。
- 歳出削減・規制緩和・社会保障改革を同時に進める。
- 規制と補助金の既得権を減らして競争と生産性を高める。
- 社会保障(特に高齢者優遇)を見直し、自己負担の適正化を図る。
- 財務省を敵視せず、政治が主導して財政の筋肉化を進める。
- 減税を支える現実的手順とスケジュール(税調→骨太→概算要求)を守る。
- 野党は「増税反対」で一致し、与党の増税を牽制する。
- 政党は交付金を「政策研究・マーケティング」に使い、有権者に具体的利益を数値で示す。
- 無党派層をデータと実績で説得する。
- 組織力(支部・草の根)を持つ政党が最終的に減税を実現できる。
この12項目が、渡瀬裕哉・林尚弘両氏の議論から導かれる「減税を実現するための実践的教訓」です。