日本も他人事ではない!中国の「闇バイト的」海底ケーブル攻撃と、新たな海底戦(シーベッド・ウォーフェア)

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今回は私が時々出演させていただいているインターネット番組、ニッポンジャーナルから。

中国による海底ケーブル切断について。

中国政府は太平洋、インド洋、北極海に渡る大規模な海底地図作成、および監視活動を実施しており、米国と同盟国に対する潜水艦戦を行う上で極めて重要になる海洋状況に関する詳細なデータを構築しています。
https://reuters.com/investigations/china-is-mapping-ocean-floor-it-prepares-submarine-warfare-with-us-2026-03-24/

海底地形の正確な把握は、世界中の通信を支える海底ケーブルの位置特定にも繋がりますが、台湾有事などの際、これらのインフラを正確に切断・盗聴する為の「作業用マップ」として転用されるリスクが。

日本近海も相当マッピングされていると思われます。

2024年後半、調査船「東方紅3号」は中国の港を出港し、日本の東海岸沿いに設置された高性能海洋センサー群の点検に向かっていますが、これらは軍事用途の為のツールだとReutersの調査結果を検証した9人の海軍専門家。

🔻図のオレンジ色の線は、2020年5月から2025年12月までの中国調査船の航路を示しています。

ご提示いただいた動画(小泉悠氏と井上和彦氏による解説)のポイントをかみくだいて羅列します。

大きく分けて「海底ケーブルを巡る新たな脅威(シーベッド・ウォーフェア)」と、「ウクライナでの地雷除去支援と日本の課題」の2つのテーマが語られています。

1. 海底ケーブル攻撃と新たな「シーベッド・ウォーフェア(海底戦)」

  • 「シーベッド・ウォーフェア」という新概念

    • 従来の「対潜水艦作戦(ASW)」に加え、海底ケーブルや洋風力発電の電線、ガスパイプラインといった海底インフラを守る・攻撃する「海底戦(シーベッド・ウォーフェア)」という概念が急速に重要視されています。 [00:49]

    • 特に北海などに面するヨーロッパ諸国(イギリス、フランスなど)で危機感が高まっており、対策に乗り出していますが、人員不足や各国間の連携不足といった課題に直面しています。 [01:22], [01:40]

  • 中国による「闇バイト的」なグレーゾーン攻撃

    • 台湾周辺では、中国籍や所有者不明の貨物船がわざと錨(いかり)を沈めて引きずるなどして、海底ケーブルを切断する事例が発生しています。 [02:17], [02:34]

    • 実行犯はそれがどれほど重大なインフラか知らずにやっている可能性もあり、さながら「闇バイト」のような安上がりなコストで行われています。 [02:34], [02:50]

    • 正式な「戦争」ではないグレーゾーンの手段で、社会に致命的な損害を与えてくるのが特徴です。 [02:50]

  • 守る側のジレンマと日本の遅れ

    • 攻撃側はきわめて低コスト(数千ドルの貨物船や錨など)なのに対し、守るべき海底インフラは非常に高額で範囲も広いため、単に「ガッチガチに監視する」だけでは防ぎきれない非対称性があります。 [03:14], [03:32]

    • 周囲を海に囲まれ、通信やインフラを海底ケーブルに100%依存している日本にとって他人事ではありませんが、防衛戦略などの議論はまだこれからという段階です。 [04:07]

2. 日本の「武器輸出」を巡る言葉遊びへの批判

  • 現実と乖離した日本のルール

    • 台湾の海底ケーブル問題や、今後の半導体供給網などを考えると、日本の安全保障に直結する国への防衛協力(武器輸出の解禁など)は不可欠であると指摘されています。 [05:50], [09:23]

  • 「非武器」「非殺傷」という言葉遊び

    • 日本は「防衛装備品移転三原則」などで輸出できる相手や品目を厳しく制限していますが、「軍用トラックも緑に塗ればセーフ」「巡視船に大砲を載せる台座があると武器だが、無ければノンリサル(非殺傷)」といった、日本独自とも言える「言葉遊び」でハードルを上げている現状への不満が示されています。 [07:35], [08:37]

3. ウクライナにおける地雷除去とAIドローン(日本の貢献可能性)

  • 過酷な前線の地雷地帯

    • ウクライナでは、ロシア軍が進行を阻止するために基準の3倍もの超高密度で地雷を敷き詰めました。今や巻いた側(ロシア)もどこに何があるか分からなくなっている泥沼状態です。 [13:07], [13:19]

    • 道を一歩でも外れれば地雷だらけという過酷な環境で、地形や草木も複雑なため、手作業での除去は極めて困難です。 [12:14], [12:36]

  • AIドローンを活用した地雷除去実験

    • 現地ではドローンにAIを搭載し、危険な場所を自動で見つけてマッピングし、処理につなげるというサイクルが実験・確立されつつあります。 [10:33], [10:50]

  • 日本が誇るべき人道協力

    • 日本には優れたセンサー技術などがあり、こうした地雷除去への支援は(軍事協力に当たらないため)憲法などの制約に関わらず問題なく行えます。 [09:47], [11:04]

    • 「戦争が終わってから除去すればいい」というのは現地の人々にとっては酷な話であり、一般市民の生活や農業を守るためにも、日本はこうした技術協力を大々的に進めるべきだと結論づけられています。 [11:18], [11:31]

今回の番組で小泉氏や井上氏が指摘されている通り、現代の安全保障は宇宙やサイバー空間のみならず、我々の目に見えない「海の底」にまで急速に拡大しています。四方を海に囲まれ、通信や物資のほぼ全てを海洋インフラに依存する我が国にとって、海底ケーブルの防衛(シーベッド・ウォーフェア)は一刻の猶予も許されないクリティカルな課題です。

また、防衛協力を巡る「言葉遊び」のような形式主義から脱却し、ルールを現実的なものへと見直していくことも急務です。同時に、地雷除去のような日本が強みを持つ人道的な技術支援については、憲法や従来の枠組みに縛られすぎることなく、国際社会へ大々的に貢献していくべきだと強く感じます。

コメント

  1. 0924 より:

    中国を知るキーワード

    1. 「白猫黒猫論」と「共産党」の本質
    概念: 「白猫でも黒猫でも、ネズミを捕る猫が良い猫だ」という鄧小平の有名なスローガン。

    要点: 経済政策において資本主義的手法(黒猫)を取り入れようが、社会主義的統治(白猫)を守ろうが、成果が出れば手法は問わないという実用主義です。

    本質: 「猫」そのものは「中国共産党による一党支配」であり、そこだけは絶対に揺らぎません。柔軟な経済運用や表面的な変化があっても、統治の根幹(党の支配)能力を維持・強化するための手段に過ぎないという点が見落とせない肝となります。

    国共合作(1924年、1937年)が「共産党が国民党の組織力・国際的正統性を借りて自らを拡大再生産する場」として機能したのと同型で、改革開放は「資本主義の生産力・技術・資本を借りて、共産党の統治能力そのものを拡大再生産する場」として機能した。

    この論理が巧妙なのは、「手法(黒猫か白猫か=計画経済か市場経済か)は問わない」と言うことで、あたかも党がイデオロギー的な柔軟性・謙虚さを持っているかのように見せながら、実際には「猫が誰であるか(誰がネズミを捕る主体であるか=党の独占的な統治権)」だけは絶対に議論の対象にしない、という一点に集約されているからです。つまり手段の多元性を演出することで、目的(党の権力独占)の不可侵性を隠す、という構造そのものが、まさにこれまで議論してきた「言葉のすり替え」の経済版だと言えます。市場経済の導入は「イデオロギーの後退」ではなく、「猫の色を変えても猫であることは揺るがない」という自信の表明だった、というのがおそらく最も正確な読み方だと思います。

    2. 「主要矛盾」と「非主要矛盾」(毛沢東の矛盾論)
    概念: 物事の発展過程には複数の「矛盾(対立点)」が存在し、その中で最も主導的・決定的なものを「主要矛盾」、それ以外を「非主要矛盾」と定義する思考法。

    要点: 時代や状況に応じて「今勝つために解決すべき最優先課題(主要矛盾)」を定義し、それ以外の問題(非主要矛盾)は後回しにするか、一時的に同盟を組む材料にします。

    適用: 敵を倒すために二番目の敵と手を組む「統一戦線工作」の理論的土台であり、現在も相手の弱点を突いたり国際世論を分断したりする判断枠組みとして強固に機能しています。

    毛沢東思想の矛盾論・実践論・持久戦論はいずれも、軍事的劣勢を情報・組織・時間軸の操作で覆すための理論として磨かれたものです。国共内戦・抗日戦争という、物量で劣る側が生き延びるために先鋭化させた思考様式が、現在は物量で優位に立った後もそのまま継承され、対外的な認知戦・話語権構築に転用されている。つまりこれは「弱者の兵法」として洗練されたものが、強者になった今もなお主要な武器として使われ続けている、という連続性です。

    何を主要矛盾とするかは共産党が決めるというところまでが矛盾論の仕掛け。

    統一戦線は毛沢東が定式化した戦略で、「主要敵に対抗するために、本来は矛盾する相手(地主・資本家・国民党・外国資本)と一時的に手を組み、相手の力を利用しつつ最終的には主導権を握る」という、党の DNA に組み込まれた反復可能なテンプレートです。国共合作もそうでしたし、改革開放における外資導入・市場経済の受け入れも、WTO加盟も、対外的な統一戦線工作の延長と考えたほうがわかりやすい。

    一時的に敵と手を組んで養分を吸い上げて、力をつけたら最後に裏切る

    毛沢東自身が国共合作について書いた文章(『中国革命戦争の戦略問題』など)の中で、統一戦線の目的を「主要敵を孤立させるために、副次的な矛盾は一時的に棚上げする」という、極めて手段的・道具的な言葉で説明しており、これは「友好」や「協力」という情緒的な語彙ではなく、純粋な力学計算として提示されています。

    「今、何が主要矛盾か」を党が一方的に定義し直す権限こそが、統一戦線的な使い捨て的協力関係(資本家、外国資本、WTO、WHO、そして時には自国民さえも)を正当化し続ける、理論的な万能装置になっている、という見方ができると思います。手段は状況に応じて自在に変わりますが、「誰が主要矛盾を定義する権限を持つか(=党)」という一点だけは、白猫黒猫論の「猫」の部分と同じく、絶対に手放されない核心だということです。

    3. 話語権(ディスコースパワー)と「概念の希釈化」
    概念: 国際社会において「自国の主張や価値観を他国に受け入れさせる言説の支配力」。

    要点(二段階構造):

    概念のすり替え・希釈: 「民主」や「人権」といった共通言語の定義をぼかします(例:「全過程人民民主」=一定の政治参加があれば民主主義である、「発展権」=経済成長こそが最優先の人権である)。

    多数派の再定義: 基準を緩めた「甘い人権・民主」論を展開し、権威主義国や発展途上国を味方につけて国際機関(国連など)で数の力による正統性を演出します。

    4. 歴史の「戦略文化の土壌」
    概念: 話語権戦略は単に2013年以降に突然生まれた政策ではなく、中国の歴史に脈々と流れる思想的蓄積の上に成り立っているという視点。

    構成要素:

    四面楚歌・孫子の兵法: 正面衝突を避け、敵の士気や認識(物語)そのものを内側から崩して「戦わずして勝つ」心理・認知戦の重視。

    法家思想: 実体よりも「名(呼び方・定義)」を優先・操作して人民や他者を統制する技術。

    毛沢東思想: 物量や軍事で劣る弱者が、時間・情報・認識の操作によって強者を翻弄する「持久戦・心理戦」の理論。

    「共産主義的弁論と中国的弁論の様式美の合体」が中国共産党の謀略性に磨きをかけている。
    ・弁証法的唯物論・歴史の必然性という、西洋近代が生んだ科学主義の権威(マルクス・レーニン主義由来)
    ・天命・徳治・正名という、儒教・法家由来の統治者の道徳的権威を語る修辞(伝統中国由来)
    ・諸子百家の縦横家・名家的な詭弁・弁論の技術(春秋戦国の遊説の伝統由来)

    5. 高度に抽象化された「嘘」と概念の再定義戦略
    概念: 単なる「事実の偽装(個別のファクトについての嘘)」を超えた、評価の座標軸(定規)そのものを書き換える言語手法。

    本質: 西洋的なレトリック(多義性の悪用やオーウェル的ニュースピーク)に留まらず、「民主」「自由」という言葉を排斥するのではなく、その言葉を乗っ取って自国の体制を「民主の範囲内」に収めてしまう点にあります。個別ファクトの検証(ファクトチェック)だけでは追いつかない、根本的な思考の枠組みへの攻撃です。

    言説戦略の限界と「事実の岩盤」による対抗
    相手が書き換えようとする「言葉の解釈」に付き合うのではなく、隠しきれない「事実の岩盤」を定点観測し、検証可能なインフラとして理論構築していくことが求められます。

  2. 0924 より:

    中国の「壁」はなぜ壊せないのか
    ――グレートファイアウォールと、情報をめぐる不公平な構図
    はじめに

    中国には「グレートファイアウォール(GFW)」と呼ばれる、世界最大級のインターネット検閲システムがある。この壁のせいで、中国国内の人々は海外のニュースやSNSに自由にアクセスできない。ところが不思議なことに、中国政府自身は、YouTubeやXといった海外のプラットフォームに堂々とアカウントを持ち、宣伝活動や、時には過激な発言まで行っている。

    自分の国は閉じたままにしておいて、相手の国には自由に出入りする。この不公平さに、多くの人が違和感を覚えている。本稿では、なぜこの「壁」がそう簡単には壊せないのか、そしてこの不公平な状況にどう向き合えばいいのかを、順を追って考えてみたい。

    1. グレートファイアウォールは、どんな仕組みなのか

    GFWは、ひとつの巨大な装置がすべてを検閲しているわけではない。いくつもの技術が組み合わさった、いわば多重の網である。

    DNSポイズニング:見てはいけないサイトの住所を尋ねると、わざと嘘の住所を教えて誘導する
    IPブロッキング:特定の海外サーバーへの通信を、そもそも通さない
    通信内容の検査(DPI):通信の中身を覗き見て、危険そうなキーワードやパターンを見つけると遮断する
    おとり捜査のような確認(能動的プロービング):怪しい暗号化通信を見つけると、GFW自身がそこに接続してみて、本当にVPNなどの回避ツールかどうかを確かめる

    これらはすべて、北京・上海・広州など、ごく少数の「海外との出入り口」に集中して設置されている。そしてその出入り口は、国有の通信会社がしっかり管理している。

    ここで大事なのは、GFWの狙いが「完全に情報を止めること」ではないという点だ。本当の狙いは、壁を越える手間を、できるだけ面倒にすることにある。技術に詳しい人は多少苦労すれば壁を越えられる。しかし普通の人にとっては、その「多少の苦労」自体が高いハードルになり、結局あきらめてしまう。この差をずっと維持し続けることこそが、GFWの本当の狙いなのである。

    2. 国がその気になれば、GFWを壊せるのか

    「アメリカや日本のような国が、本気の攻撃力を使えばGFWを壊せるのではないか」と思うかもしれない。理論上は、海外との出入り口となっている少数のポイントを狙い撃ちすることも考えられなくはない。

    しかし、これが実際には行われない理由がいくつもある。

    第一に、通信インフラのような国の重要な基盤を狙って攻撃することは、多くの国で「ほとんど戦争行為」とみなされるおそれがある。NATOの議論でも、重要インフラへの攻撃は集団的な軍事対応の引き金になりうるとされている。

    第二に、サイバー攻撃は、いずれ「誰がやったか」が突き止められる。そうなれば当然、報復の連鎖が始まる。中国側も「グレートキャノン」と呼ばれる攻撃的なサイバー能力を持っており、実際に海外のサイトへの攻撃に使った実績もある。つまりお互いに手を出せば痛い目にあう、という抑止が働いている。

    第三に、仮に一時的に壁を壊せたとしても、中国側はすぐに復旧させてしまう。手間とリスクに見合うだけの効果が乏しいのだ。

    だからこそ実際に行われているのは、壁そのものへの攻撃ではなく、「壁をどうやってこっそり越えるか」という技術開発競争である。アメリカ政府なども、壁を壊すことにではなく、VPNなど回避ツールの開発支援にお金を使ってきた。

    3. なぜ中国だけが「出入り自由」なのか

    ここで浮かび上がるのが、情報の流れの不公平さだ。これは国際政治の世界で「シャープパワー」と呼ばれている現象で、ちゃんとした研究の対象になっている。

    考え方はシンプルだ。

    自由な国は、言論の自由やSNSへの参加を大切にしているからこそ、外からの工作に対して無防備になりやすい
    閉じた国は、国内への情報の流入は厳しく取り締まりながら、外に向けての発信には国のリソースを注ぎ込める

    実際、Meta社やGoogleの調査チームは、中国系とみられる大量の偽アカウントによる世論工作が、日本を含む多くの国で見つかっていると報告している。こうした動きは、必ずしも政府が直接指示しているとは限らない。愛国的な学生団体や、半分公認のような組織が動いていることもあり、「これは国家の仕業なのか、個人の熱意なのか」の境目がはっきりしないことも多い。

    プラットフォーム側もこれに手をこまねいているわけではない。最近の対策は、投稿の中身そのものを審査するのではなく、「同時に大量のアカウントが同じような投稿をしている」といった不自然な行動パターンを見つけて、まとめて削除するというやり方に変わってきている。発言の中身で判断すると言論の自由と衝突してしまうので、行動のおかしさで判断する、というわけだ。

    4. 「戦狼外交」という現象

    この不公平さが一番わかりやすい形で表れているのが、いわゆる「戦狼外交」だ。

    2025年11月、大阪の中国総領事だった薛剣氏が、高市早苗首相の台湾有事に関する発言を受けて、X(旧Twitter)に「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやる」という、殺害予告のような投稿をした。投稿はすぐに削除されたが、日本政府は強く抗議し、台湾政府も懸念を示した。

    面白いのは、これに対する中国政府の反応だ。中国外務省の報道官は薛氏をかばい、逆に「これは中国の内政への乱暴な干渉だ」と日本を非難した。

    一度きりの失言ならともかく、こうした発言が繰り返され、しかも党がそれを擁護している。これはもう「うっかりの失敗」ではなく、意図的に選ばれたやり方だと考えるのが自然だろう。

    ではなぜ、こんな発言が許されるのか。ヒントは、日本と中国で「暴言が政治的にどう跳ね返るか」の仕組みがまったく違うことにある。

    日本では、政治家が品位のない発言をすれば、次の選挙で有権者が判断を下せる。新聞やテレビが批判できる。世論調査という形で「支持率が下がった」と数字にも表れる。野党もそこを追及する。つまり「暴言→反発→支持率低下→政治的な痛手」という流れがちゃんと働いている。

    ところが中国では、この流れがまるごと存在しない。外交官の地位は選挙ではなく党の人事で決まる。独立した世論調査もない。国営メディアは同じ党の傘下にあるので、「あの発言は品がない」という批判自体が国内で広まりにくい。むしろ強気な発言は、国内の愛国的な世論に向けたパフォーマンスとして、むしろプラスに働いてしまう。

    これは「中国人の政治的な成熟度が低いから起きている」という見方もできるし、同時に「そもそも成熟を測る仕組み(選挙や自由な報道)そのものがない」という見方もできる。おそらく実際には、この二つは対立するものではなく、仕組みがないからこそ、理性より過激さを選ぶほうが得になる、という関係でつながっているのだろう。

    5. インターネットそのものを変える、という発想

    もっと根本的な方法として、「インターネットの仕組み自体を変えてしまう」という考え方もある。GFWが強いのは、今のインターネットが「少数の出入り口に情報が集中する」という、中央集権的な作りになっているからだ。この前提自体を変えられれば、壁はそもそも成り立たなくなる。

    メッシュネットワーク:スマホ同士が直接、あるいは近くの端末を中継して通信する仕組み。2019年の香港の民主化デモでは、こうした近距離通信アプリが実際に使われた。ただし届く範囲が近所に限られるので、海外の情報を得るには力不足
    分散型の名前解決システム:DNSのような「住所を教えてくれる係」を、特定の管理者に頼らない仕組みに置き換える試み。理論上は有望だが、まだ実用にはほど遠い
    衛星インターネット(Starlinkなど):地上の出入り口をそもそも経由しない通信手段。これはGFWにとってもっとも根本的な脅威になりうる。ただし、中国国内で受信機を持っているだけで重い罪に問われるため、実際に広まるのは難しい

    いずれの方法にも共通する限界がある。それは、大容量の通信は結局、海底ケーブルなど「地上の物理的な線」に頼らざるを得ず、その線は依然として国家の管理下にある、という点だ。技術だけでは、この最後の壁を越えられない。

    6. どう向き合うべきか

    最後に、この問題をどう位置づけるべきかを考えたい。

    情報の流れの不公平さ――自由な国には情報が入ってくるのに、閉じた国には入っていかない――を正すことは、長い目で見れば、体制同士の競争における大事な安全保障の課題だ、という考え方がある。実際、アメリカなどではこうした主張が政策の議論として存在する。

    ただし、これには注意すべき点もいくつかある。

    第一に、こうした情報アクセスの支援は、中国側から見れば「内政への干渉」だと言われかねない。誰がそれをやるか(政府なのかNGOなのか)によって、国際的な扱いも変わってくる。

    第二に、冷戦の時代、アメリカの声(VOA)やラジオ自由ヨーロッパといった放送が行われたが、情報が届いたからといって、必ずしも人々の考え方がすぐに変わるとは限らない、ということが後の研究でわかっている。教育やメディアを通じて長年培われた考え方の枠組みは、そう簡単には揺るがない。

    第三に、「中国発だから」という理由だけでアカウントや通信を締め出そうとすると、それは結局、権威主義国家がやっていることと同じ理屈(出身地や属性で言論を制限する)を、自由な社会の側が採用することになってしまう。これでは自分たちの正当性を自ら傷つけることになりかねない。

    こうしたことを踏まえると、現実的な落としどころは、「中国から来た」ことそのものを理由にするのではなく、「組織的で不自然な行動である」ことを理由に対処するという方法、そして壁を「壊す」のではなく「迂回路を太くしていく」という、地道な積み重ねに行き着く。

    まとめ

    グレートファイアウォールは、ひとつの弱点を突けば崩れるような単純な仕組みではない。外から力ずくで壊そうとすれば、それは国家間の紛争リスクを招く危険な行為になってしまう。だからこそ有効な対抗策は、壁が成り立つための前提――出入り口が少数であること、検閲が見えにくいこと、回避が手間であること、政治的な情報を機械的に判別できること――を、少しずつ間接的に崩していくことに限られる。

    なかでも、経済的なつながりを利用する作戦や、衛星通信のようにインターネットの仕組み自体を変えていく方向性は、壁が頼っている物理的・制度的な急所に近づくという意味で、もっとも本質的な効果を持ちうる。ただし、技術だけでは、受信機の所持を重罪化するような法律の壁までは越えられない。技術的な取り組みは、国際的な人権外交や制度的な支援とセットになって、はじめて意味を持つ。

    そして、この不公平さが政治の表舞台に現れたものが、戦狼外交だ。これは外交の失敗ではなく、選挙も自由な報道も世論調査もない社会だからこそ成り立つ、国内向けの計算されたパフォーマンスとして理解する必要がある。この仕組みの欠如こそが、理性よりも過激さを選ぶ政治文化を生き延びさせている。つまりこの問題への向き合い方は、情報インフラへの働きかけと、相手の体制がなぜ説明責任を果たさなくても済むのか、という長期的な視点の両方を、同時に持ち続けることが必要なのだと思う。

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