米国産生鮮ジャガイモ輸入協議の本質——土壌を守る「科学的検疫」と、日本の農業に必要な「農家主導の戦略組織」

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今回は農業の話題を。

日本の農業の課題:農地の集約化と法人参入促進 国家戦略特区の養父市の取組に対して朝日新聞がデマで足を引っ張る?
村西徹さんから日本の農業政策に関するご提言をいただきました
食料・農業・農村基本法改正案が可決 事前の法案調査について
日本農業成長八策
農水省が9億円も投じる「フードGメン」事業は市場をゆがめて米価を高止まりさせるだけの無駄な統制だ
食料自給率について→本当に必要なのは「自由貿易体制」と輸入の安定確保
コメ価格上昇について 農水省・農協以外の要因
JA改革を進めつつ、農家が自主自立を進めることに期待
コメ価格高騰の原因?トルコとのビザ免除協定、再エネ賦課金、等について質問 参議院行政監視委員会 令和7年5月12日(月)
問題の本質は農水省が正しく統計をとれていないことでは?

今回の本題はこの話題。

農林水産省はアメリカ産の生のジャガイモの輸入解禁に向けた手続きについて、具体的な協議を行う新たな段階に進んだと明らかにしました。ジャガイモ農家への打撃を避けられるのか、不安の声が上がっています。 (2026年9月18日放送「news every.」より)

アベマプライムの動画。ポイントが網羅されているように思います。

 

提示された動画(ABEMA Prime『【ジャガイモ輸入】なぜアメリカは生鮮の解禁を要請?病害虫が持ち込まれるリスクは?生産者に聞く』)の議論のポイントを箇条書きで整理しました。
  • 問題の背景と現在の状況
    • アメリカが日本に対し、「生のジャガイモ(青果用)」の輸入解禁を求めて協議の加速を要請している [00:11]。
    • ポテトチップスなどの加工用ジャガイモはすでに輸入されているが、生鮮青果用は病害虫リスク防止のため原則禁止されている [00:41]。
    • 農水省は生産者向けオンライン説明会を開き、病害虫侵入を阻止できる水準のリスク管理措置の合意が輸入解禁の前提であると説明した [00:20]。
    • 解禁に向けたプロセス全11段階のうち、5段階から9段階へと一気に進んだ印象があり、生産者側には「輸入ありきで進んでいるのでは」という警戒感がある [13:36]。
  • 懸念される病害虫と土壌汚染リスク
    • 焦点となっているのは「ジャガイモシロシストセンチュウ」などの土壌病害虫 [01:24]。
    • 人体への健康被害はないものの、一度畑に侵入すると根絶が極めて困難で、長期にわたり畑を汚染して収量・生育に壊滅的な打撃を与える [01:33]。
    • センチュウが発生した地域では、次の作付けに必要な「種芋」の生産ができなくなる [07:43]。
    • 北海道十勝などではジャガイモ・小麦・甜菜などを組み合わせた「輪作(りんさく)」を行っており、ジャガイモが作れなくなると全作物のバランスが崩れ営農が成り立たなくなる [30:17]。
  • 青果用(生鮮)ならではの侵入ルートの怖さ
    • 加工用なら指定工場で油で揚げるなど高温加熱殺菌されるが、生鮮は生のまま店頭に並ぶ [06:42]。
    • 一般消費者が購入後、興味本位で家庭菜園や庭の土に植えてしまったり、生ゴミなどを介して土壌へ病害虫が広がるリスクがあり、水際対策後の行方が追えない [02:17], [08:27]。
    • 泥付きの輸入は禁止されているが、洗浄して輸入する場合も腐敗リスクや輸送資材への付着リスクが残る [07:00]。
  • アメリカ側の狙いと通商上の力学
    • 発端は2020年(第1次トランプ政権)の市場開放要求に遡る [15:29]。
    • アイダホ州やワシントン州などジャガイモ主要産地の票や評価を意識した政治的背景も指摘されている [17:29]。
    • WTO(SPS協定)のルール上、相手国から科学的な協議を求められた場合は応じる義務がある [15:38]。
  • 輸入容認・前向き側の主張(エコノミスト・経済視点)
    • 気候変動や自然災害により、国内だけで常に安定供給できるとは限らない(過去の台風によるポテトチップス販売休止や価格高騰の例)[20:23]。
    • 不作やショック時の代替調達先を確保しておくことは食料安全保障上もプラスになり得る [21:12]。
    • 米国全土が汚染されているわけではなく、発生地域を限定・除外するなど科学的に管理すればリスクは抑えられる [21:44]。
    • 国産ジャガイモは高品質・ブランド力があり、かつて牛肉やオレンジを自由化した際のように、安易に壊滅するわけではなく差別化で対抗できる [22:14], [22:52]。
  • 生産者・慎重側の反論
    • 国内の生鮮ジャガイモ需要は国産で約7割以上賄えており、国内で誰も強く輸入を望んでいない [16:26], [27:30]。
    • 流通・包装コストが高いため、輸入しても消費者が期待するほど安く手に入らない可能性がある [19:15]。
    • 経済的な価格競争以前に「一度侵入されたら土壌を取り戻せない」という非可逆性のリスクが大きすぎる [01:55], [10:48]。
    • 不足対策を理由にするなら、輸入解禁を急ぐ前に国内農家への増産・振興策に力を入れるのが先ではないかという指摘 [16:35], [27:44]。

農水省の説明動画。

提示された農林水産省公式YouTube動画(BUZZMAFF『【農水省公式】解禁ありき?なぜ輸入検疫協議をアメリカとしているのか、農林水産省の担当職員が解説します』)の要点を箇条書きで整理しました [source: 1]。
  • 前置き・農水省のスタンス
    • 「農家を守る気がない」「農家を潰したいのか」といった批判に対し、大臣から担当職員に至るまでそのような意図は一切ないと否定 [source: 1: 00:00:48]。
    • 日本の食と農を守るため、厳格な科学的根拠に基づいて対応していると強調 [source: 1: 00:12:36]。
  • なぜ協議を中止・拒否できないのか(WTO・SPS協定のルール)
    • 日本はWTO(世界貿易機関)に加盟しており、国際的な検疫ルールである「SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)」に従う義務があるため、協議自体を一方的に拒否・中止することはできない [source: 1: 00:01:23], [source: 1: 00:01:55]。
    • SPS協定の基本ルールは「① 輸入禁止などの措置は科学的根拠に基づかなければならない」「② 相手国から協議要請があれば応じなければならない」の2点 [source: 1: 00:02:36]。
    • 相手国から病害虫のリスクを十分に下げる科学的・客観的な措置が提示された場合は、輸入を認めなければならない取り決めになっている [source: 1: 00:03:49]。
    • 国内の自給率の高さや「輸入したい/したくない」といった政治・経済的思惑は、検疫協議においては考慮されない [source: 1: 00:04:19]。
    • 日本側もこのルールを使い、2021年のメロンのほか、かんきつ類やぶどうなどの対米輸出を協議・実現させている [source: 1: 00:04:53]。
  • 「解禁ありき」で進んでいるのか?
    • 解禁ありきということは全くない [source: 1: 00:05:26]。
    • 病害虫の侵入リスクが十分に下がると客観的・科学的に証明されない限り、協議は前進せず、結果として解禁にも至らない [source: 1: 00:05:32]。
    • 日本が求める衛生基準をクリアできず、必要な検査や試験データが示されない場合は輸入を認めない方針 [source: 1: 00:06:01]。
  • シストセンチュウ等の侵入リスクと「土付き」への懸念
    • スーパー等で売られているような「土付き」のジャガイモを輸入許可することは、検疫上「絶対にあり得ない」と断言 [source: 1: 00:06:45]。
    • 土は病害虫のリスクが極めて高いため植物検疫で輸入が原則禁止されており、すでに輸入されている玉ねぎや人参同様、土の付着を完全に防ぐ管理措置を求める [source: 1: 00:07:00]。
    • 仮に将来解禁されるとしても、米国産のイモを一律で受け入れるのではなく、日本側の厳しい基準・管理措置をクリアしたものだけに限定される [source: 1: 00:07:55]。
  • 現在の協議の進捗状況
    • 一般的な検疫プロセスは「① 相手国からの要請 → ② リスクの評価(危険な病害虫の特定) → ③ リスクの管理(防除手段の策定) → ④ 解禁」という流れ [source: 1: 00:08:32]。
    • 2020年に米国から要請を受けて以降、慎重に「リスク評価」を行い、協議が必要な病害虫(ジャガイモシロシストセンチュウ等)を特定し終えた [source: 1: 00:09:07]。
    • 現在は「② リスク評価」が終わり、これから具体的な侵入防止策を決めていく「③ リスク管理」の協議が始まる段階にある [source: 1: 00:09:48]。

農業の専門家、浅川芳裕さんのXポストを紹介します。米に関する話ですが、今回のジャガイモについても適用すべき話です。

これらを踏まえて、私のエックスのポスト。

米国産生鮮ジャガイモの輸入要請について、議論の本質と日米の生産者組織の差、そして日本が取るべき方向性を整理しました。

【今回の問題の本質】

今回の動きは、米国産生鮮ジャガイモを今すぐ店頭に並べる決定ではありません。2020年の米側要請を受けた検疫協議を加速させ、3段階のうち第1段階である病害虫21種の特定を終えて、第2段階のリスク管理措置の検討に入ったというフェーズです。関税は過去の通商交渉で既に問題ではなく、残っているのは植物検疫のみです。

また、2006年から条件付きで入っているポテトチップスなどの加工用とは決定的に異なります。加工用は指定産地から密閉輸送され、指定工場で高温加熱されるため病害虫が外へ漏れません。しかし青果用は泥付きや生のまま流通し、消費者が庭や畑に植えてしまう種芋への転用や生ゴミ経由など、土壌への侵入経路が格段に広がります。

焦点となるジャガイモシストセンチュウ、シロシストセンチュウ、がんしゅ病などは、一度土壌に入ると現代の技術でも根絶がほぼ不可能です。北海道をはじめとする主産地で発生すれば、翌年の苗となる種芋の生産が法的に禁止され、輪作体系を含めた日本の農業基盤そのものが崩壊しかねません。侵入後の社会的費用や土壌汚染は不可逆的であり、数年間安いイモを買える消費者の便益をはるかに上回ります。

【頭ごなしの輸入拒絶論への反論と科学的判断】

だからといって、感情的に「輸入は一切拒絶すべし」と鎖国論に走るのも短絡的です。WTOのSPS協定上、科学的根拠のない輸入禁止を一方的に維持することはできず、要請があれば協議に応じる義務があります。何より、気候変動で天候リスクが高まる現代において、検疫条件を満たす範囲の輸入まで全否定してしまえば、国産不作時の緩衝機能を失い、かえって食料安全保障を損ないます。

科学の世界に100パーセントのリスクゼロはほぼ存在しません。だからこそ、「ゼロリスクではないから全て拒否する」のも、「ゼロリスクは無理だから条件を緩める」のもどちらも乱暴です。問うべきは、危険地域や土の付着排除、選別・検査、流通経路の限定、種芋転用の防止、万が一の廃棄・補償責任といった管理措置により、リスクを無視できる水準まで下げられるかどうかです。米国の政治日程に合わせた手続き加速に流されることなく、基準を満たさないなら止めると明言し、管理措置を公開して検証することが不可欠です。

【相互主義の落とし穴と日米の組織格差】

「米国も日本産を止めているのだから解禁すべきでない」という相互主義の感情論も、交渉カードにはなっても病害虫リスク評価の代わりにはなりません。むしろ直視すべきは、日米の生産者組織の圧倒的な構造差です。

米国側には、政治ロビーを担う全米ポテト評議会(NPC)と、輸出開拓・宣伝を担う米国ポテト協会(Potatoes USA)という専門部隊が存在します。これは最初から順風満帆だったわけではありません。不作や需要減に苦しみ、「このままでは産地が終わる」という強い危機感を持った米国の生産者たちが自ら立ち上がり、長年かけて築き上げた仕組みです。連邦法に基づくチェックオフ制度によって生産者から自動的に資金を拠出し、専従のプロ集団を雇って数十年にわたりワシントンD.C.や世界市場へ攻勢をかけています。

一方の日本は、米から野菜まで全品目を一括で抱えるJA系統による国内防衛や国の単年予算に依存しており、ジャガイモ単品の海外市場開拓や、相手国の検疫を突き崩すための専門ロビー組織を持っていません。

【日本もかくあるべき:農家主導の戦略組織へ】

米国に対抗し、対等な相互主義(日本産イモの輸出や不当な圧力への科学的対抗)を実現するためには、日本もただ殻に閉じこもる反対運動や行政任せから脱却しなければなりません。

海外の農家団体はすでに日本市場の攻略を綿密に設計しており、日本の農家は知らず知らずのうちに彼らと胃袋のシェアを争っています。出荷したら終わり、相場任せという姿勢のままでは、将来の価格も需要も自分たちで設計することはできません。

日本に必要なのは、農協や農水省任せではなく、農家自身が出資して価格・供給計画・プロモーションなどの全体戦略を主導する「ジャパン・ポテトファーマーズ」のような作物別組織です。3年ごとの戦略マップ策定、需要の開拓、技術革新を生産者自らが共有し、意思決定していく攻めの体制が求められます。

【結び】

感情的な輸入拒絶に逃げ込むのではなく、科学的検疫によって自国の畑と種芋を断固として守り抜くこと。基準未達なら毅然と輸入を認めない防壁を保ちつつ、日本側も農家主導の品目特化型戦略組織を立ち上げ、科学データと専門部隊を武器に世界と渡り合う攻めの体制を整えること。この両輪が揃って初めて、日本の農業基盤を真に守り、発展させることができます。

#日本自由党

日米の通商交渉と農業のあり方を巡っては、単なる「輸入賛成・反対」の二項対立で思考停止してはなりません。

農水省が公式に説明している通り、WTO(SPS協定)の加盟国である以上、相手国からの協議要請自体を一方的に拒絶することは国際ルール上不可能です。しかし同時に、農水省自身が「解禁ありきではない」「客観的・科学的な裏付けが示されなければ解禁には至らない」「土付きの輸入許可はあり得ない」と明言している姿勢こそが極めて重要です。一度侵入すれば取り返しのつかない土壌病害虫から日本の畑や種芋を守るため、政治日程や外交圧力に決して妥協することなく、この厳格な科学的検疫基準を言葉通り最後まで貫徹することが政府には強く求められます。

一方で、日本の農業を真に持続可能で強い産業へと変革していくためには、従来の「全農産物を包括する農協系統による国内防衛」や「行政・補助金頼み」の構造から脱却しなければなりません。米国のように、生産者自身が出資して専門スタッフを雇用し、単一品目ごとに世界市場の開拓や戦略的マーケティング、政策提言を主導する「品目別の自立型組織」へと進化していくことが急務です。

感情論による鎖国的な輸入拒絶に閉じこもるのではなく、守るべき土壌と種芋は科学的検疫で断固として守り、攻めるべき市場には農家主導の戦略組織で打って出る。

日本の農業の自立と発展、そして実効性のある食料安全保障の実現に向けて、今後とも現場の声を大切にしながら、問題提起と建設的な政策提言を続けてまいります。

追記(2026年9月25日)

日本の農業を強くするには、JA解体が必要な理由、そして過去になされたJA改革についてまとめました。

日米の生産者組織の違い、JA改革の必要性、そして過去の改革の歴史について、難しい用語を省いて要点を箇条書きで整理しました。
  • なぜ日本版「ポテト協会」を作るのにJA改革が必要なのか
    • アメリカのポテト協会は、農家自身がお金を出し合い、専門家を雇って「ジャガイモ1品目の世界展開・宣伝」に全力を注ぐ組織であること。
    • 対する日本のJAは、米・野菜・肉など全部をまとめて扱う「総合農協」のため、特定の1品目だけに資金や人を集中投下できない仕組みになっていること。
    • さらにJAは銀行(JAバンク)や保険(JA共済)の利益が大きいため、本業である「作物を工夫して高く売るマーケティング」が育ちにくい体質があること。
  • 安倍政権の農協改革(2015年)とその限界
    • 全国組織の頂点にあった「JA全中」の強い権限(地域農協への強制的な指導・監査権)を廃止し、地域農協が独自に動きやすくしたこと。
    • 農協の役員の半分以上を現場のプロ農家にすることを義務付けたこと。
    • ただし、銀行・保険事業の切り離しなど根本的な体質改善には踏み込めず、「看板を掛け替えただけで実質的な体質はあまり変わらなかった」という限界が残ったこと。
  • 安倍政権以上に成果を上げた歴史的改革:1995年の「食糧管理法(食管法)廃止」
    • 戦後ずっと「米は国と農協が買い取り、価格を決める」という独占状態が続いていた仕組みを完全に解体したこと。
    • 農協を通さずに、農家がスーパーや外食チェーンへ直接お米を売る「自由な民間流通」が法律で認められたこと。
    • これにより意欲ある農家が自ら価格交渉や販路開拓をする道が開かれ、農協の独占体制を根底から崩した「戦後最大の成果を上げた改革」となったこと。
  • 今後、全米ポテト協会型を目指すために必要な改革
    • 農協を「銀行・保険屋」から「作物を売るプロ集団」へと脱皮させるため、金融事業を切り離すこと。
    • 全品目を抱え込む仕組みをやめ、ジャガイモなど特定の作物ごとに農家が出資して専門組織(日本版チェックオフ制度など)を作れる法律・制度を整えること。
    • 「国やJAに守ってもらう農業」から「農家自らが組織を作って世界と戦う農業」へと舵を切る土台をつくること。

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