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経済安保の「劣後出資」は国策の失敗(JDI・MRJの二の舞)を防げるか?〜ラピダス支援と市場規律〜

今回は(も)私が政策立案でお世話になっている救国シンクタンクのレポートから。

救国シンクタンク注目ニュース 2026/06/04~2026/06/10

◆◆ 救国シンクタンクメールマガジン 2026/06/12号 ◆◆

救国シンクタンクでは、国内外のニュースを倉山塾有志のご協力により集積しています。

集積されたニュースは、小川清史(救国月報編集長)の方針により倉山満所長と内藤陽介研究員がスクリーニングを行い、その中からさらに注目したものを抽出して、研究員がディスカッションを行います。

今回は6月11日の研究会(ニュース分析)で取り上げた注目ニュースをご紹介いたします。

なお数字は、別添のExcelのニュース集積表の番号です。

青色(今週のTOP)、緑色(最注目)、黄色(注目)のマーキングには研究員コメントが記載されています。

今週のTOPニュース 国内111

111【皇室】

参議院HP 2026/06/08 ”「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議に

基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応」に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ(案)”           https://www.sangiin.go.jp/japanese/ugoki/kouikeisyou/pdf/20260608matome.pdf

【研究員コメント】

女性皇族の配偶者の身分に関し、「皇室の歴史に整合的であ」るべしとした。これで絶対に一般人の男は皇族になれない。国体を毀損する陰謀は封じた。養子案は、事実上の時限立法となった。養子はともかく、皇籍取得は常例にしてはならないから特措法が適切だが、典範本文(のその部分)を見直すことで事実上の特措法になった。見事な与野党合意。各党に「令和の和気清麻呂」が現れた。これで未来の子孫に受け継げる。皇室を滅ぼしたいものは一回勝てば良いが、守りたい側は一度も負けられない。しかし、2686年続いてきた。今後も続けるしかない。(倉山)

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(文責:事務局)

メルマガ本文には数多くのニュース解説があるわけですが、その中の一つを紹介します。

政府による事業支援には、いわゆる補助金以外にも様々な形態があるという点で勉強になるニュースです。

ニュース紹介の前に、解説の要約を。

研究員のコメントは、国が経済安全保障(重要な技術や資源の確保など)のために民間企業をサポートする「4つの方法」について、それぞれの違いとメリット・デメリットをとても分かりやすく分析したものです。

ニュースの背景にある「日本の劣後出資(れつごしゅっし)」が、他の方法と比べて何がスゴイのか(何が狙いなのか)を、かみ砕いて3つのポイントで解説しますね。

1. 登場する「4つのサポート方法」のイメージ

国がお金を出すとき、その「出し方」によって民間のやる気やリスクが変わります。コメントにある4つを日常の言葉に置き換えると、以下のようになります。

サポート方法 どんな状態? メリット デメリット(課題)
① 国営企業 国がオーナーで、社長もやる 国の思い通りに動かせる 競争がないので無駄遣いしがち、失敗しても潰れない(ゾンビ化)
② 補助金 お金を「あげる」(返さなくていい) 民間は挑戦しやすい もらったお金だから緊張感がなくなり、経営が甘くなる
③ 通常の融資 お金を「貸す」(一番に返してね) 国の財政は安全 リスクが高い事業だと、民間は怖がって乗ってこない
④ 日本の劣後出資 「損する時は国が真っ先に被る、儲かったら民間が先に取っていい」という条件でお金を出す 民間が安心して大勝負できる 大失敗したら国の税金がドカンと消える

2. 「劣後出資」は何が画期的なのか?

今回の法改正で注目されている「劣後出資」のポイントは、「国が一番危険な席に座るから、民間のみなさんは安心して主役として舵(かじ)を握ってください」という姿勢です。

  • リスクの底に座る:「劣後(れつご)」とは「後回し」という意味です。もし事業が失敗して借金が残ったら、国への返済や出資の回収は一番後回しになります。つまり、「損は国が最初に引き受ける」ということです。

  • 美味しいところは民間に譲る:逆に事業がうまくいって利益が出たときは、民間企業や一般の投資家に先にもうけを配ります。

  • 舵は民間が握る:国営企業のように国が口出しするのではなく、経営のプロである民間企業にビジネスの判断を任せます。

3. なぜ今、国はこんなことをするのか?

現在の世界情勢では、半導体や重要な鉱物、エネルギーの確保など、「失敗するかもしれないけれど、国として絶対に海外で進めなければいけない危険な大事業」がたくさんあります。

これまでは、民間企業に「行ってこい」と言っても、「リスクが大きすぎて無理です」と断られていました。かといって補助金をバラマキすぎると企業の経営が甘くなります。

そこで国は、「大損するリスクは国が肩代わりする。だからプロである民間の力で、世界の厳しい市場で勝ち抜いてきてくれ」という、新しい応援の形(=劣後出資)を選んだのです。

要約すると…

他の国(中国など)が「国がぜんぶ仕切る(国営企業)」やり方をとるのに対し、日本は「お金の責任(リスク)は国が持つけど、ビジネスの主役はあくまで民間」というやり方で、世界との経済競争に勝とうとしている、ということが書かれています。

4つの支援方法における事業の緊張感について。

4つの手法について、民間企業が事業を進めるうえでの「失敗できないという緊張感(市場規律)」が強い順に並べると、以下のようになります。

ポイントは、「失敗したときに民間自身がどれだけ痛みを負うか」「経営のプロとしてのプライドや競争にさらされているか」です。

緊張感の強さランキング

  1. 【1位】通常の融資(最も緊張感が強い)

    • 理由: 事業の成否にかかわらず、国(銀行)への返済義務がガチガチに残ります。失敗すれば民間企業自身が倒産するか、莫大な借金を背負うため、最もシビアに利益を追求せざるを得ません。

  2. 【2位】日本の劣後出資

    • 理由: 「国が先に損を被ってくれる」とはいえ、事業の舵(経営)を握っているのは民間自身です。市場での競争に勝たなければ自社の取り分は出ませんし、民間側の出資分も当然ゼロになります。「プロとして経営を任されている」という市場の規律がしっかり残るため、高い緊張感が保たれます。

  3. 【3位】国営企業

    • 理由: 親分が「国」なので、基本的には潰れません(ゾンビ化のリスク)。ただし、身内である国(官僚や議会)から「なぜ赤字なんだ」「計画通り進んでいない」と、政治的・行政的な厳しい監視や口出しを常に受けるため、お役所的な緊張感は存在します。

  4. 【4位】補助金(最も緊張感が薄い)

    • 理由: コメントで「市場規律は死ぬ」「最も歪みが大きい」と酷評されている通りです。もらったお金なので返済義務がなく、失敗しても民間自身が懐を痛めません。そのため、どうしても「まぁ、国の金だし」と甘えが生じやすく、4つの中で最も緊張感が薄れやすいと言えます。

まとめると

$$\text{【強】 通常の融資} > \text{劣後出資} > \text{国営企業} > \text{補助金 【弱】}$$

今回の「劣後出資」は、1位の通常融資ほどのガチガチの恐怖はないものの、4位の補助金のように「規律を捨てて甘やかす」ことのないよう、絶妙な緊張感(2位)を民間に残したまま大勝負をさせる仕組みだと言えます。

当該ニュースはこちら。

経済安全保障推進法の改正法が10日、参院本会議で可決、成立した。経済安保の観点から重要な事業を日本企業が手がける場合、国がリスクを肩代わりする。同志国との重要物資のサプライチェーン(供給網)構築を後押しする。

改正法は①重要物資の供給に不可欠な企業活動の支援②国が審査する「基幹インフラ」に医療分野を追加③重要技術の研究基金の拡充④経済安保上重要な海外事業の促進⑤経済安保のシンクタンク創設――などを盛り込んだ。

柱となるのは東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々など新興・途上国における「重要な海外事業の促進」だ。国が経済安保上、重要と認めた事業は国際協力銀行(JBIC)による「劣後出資」を認める。

損失が発生した場合は国が優先して引き受ける。利益が出た場合は民間に優先して回す。採算の見通しが立ちにくい国でも企業が事業を展開できるようにする。

半導体や造船、ドローン(無人機)製造、レアアース(希土類)調達、港湾の整備・運営などの事業を念頭におく。輸出規制など経済的威圧を強める中国に対抗して、同志国との連携を強める狙いもある。

デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んだ医療機関へのサイバー攻撃対策も強化する。国が重要インフラ企業の設備導入を事前審査する「基幹インフラ制度」に医療分野を加える。

国民生活に不可欠な物資の調達を財政支援する「特定重要物資」の対象も広げる。海底ケーブルの敷設やロケット射場の整備など、重要物資の供給に必要な「役務」と呼ばれる企業活動を加える。これまでは半導体や蓄電池など物資のみを指定していた。

国家安全保障局(NSS)を司令塔として2026年度中に独立行政法人の経済産業研究所(RIETI)に経済安保に関する総合的なシンクタンクを設ける方向だ。

改正法には安保上重要な個人データの保護に関する規定を盛り込まなかった。金融やゲノム、位置情報といったデータが中国など懸念国に流出するのをどう防ぐかが課題になっている。次期臨時国会以降の法制化をめざす。

これに関連して、以前のXポストを取り上げます。

① サポート手法の転換:【② 補助金】から【④ 劣後出資】へ

動画では「ラピダスへの出資を念頭においた法律(改正法)が成立し、政府が年内に1,000億円を出資する」と報じています。

  • これまでは【② 補助金】だった:

    工場建屋の建設など、これまで国がラピダスに入れた約3兆円は「返さなくていい補助金」でした。しかし、これだと民間経営が甘くなる(規律が死ぬ)リスクがあります。

  • これからは【④ 劣後出資】へ:

    量産化というビジネスの本格始動を前に、国は「甘やかす補助金」を止め、「④ 劣後出資(政府出資)」という新しい武器に切り替えました。これにより、国は「返却義務はないけれど、失敗したら国が真っ先に大損を被る(リスクの底に座る)」という覚悟を法律で確定させたのです。

② 狙い通りの展開:【④ 劣後出資】の強みである「呼び水効果」

ニュースでは「国が1,000億円出すことで、それを呼び水に民間からも1,000億円の出資を受けることを目指す」としています。

  • 【③ 通常の融資】では不可能だった:

    もし国が「絶対に返せ」という通常の融資をしていたら、民間企業は怖がって近づきません。

  • 【④ 劣後出資】だから民間が乗ってくる:

    国が「一番危ない席(損切りの最前線)には国が座る。儲かったら民間が先に取っていい」という破格の条件(劣後)で1,000億円をポンと置いたからこそ、民間企業も「それなら自分たちも出資を検討しようか」と、重い腰を上げ始めたのです。

③ 最も重要なポイント:【④ 劣後出資】だからこそ機能する「市場の規律」

動画の後半、出資を検討している民間企業(ソニーやトヨタなど)の幹部が、非常にシビアなコメントを残しています。

「(国が出すからといってすぐには乗らない。)企業価値の算定に時間がかかっている。7月の試作品の完成を待った上で、秋頃に最終決定する」

ここが【① 国営企業】や【② 補助金】との決定的な違いです。

もしこれが「国営企業」なら、市場のチェックなしに国の号令だけでお金がジャブジャブ投じられます。「補助金」なら、もらった民間は痛まないので精査などしません。

しかし、これは「出資」であり、「事業の舵(経営)と果実は市場(民間)に握らせる」仕組みです。民間企業側も、自分たちの出したお金が紙切れになるリスクがあるため、「お上の頼みだから」と盲従せず、「本当にこの技術は成功するのか?」とプロの目でラピダスを厳しく審査(デューデリジェンス)しています。

結論:このニュースが意味すること

この動画は、日本政府が「JDIなどの失敗(補助金のバラマキやゾンビ化)の反省」に立ち、「リスクの底には国が座るが、民間には最高の緊張感(規律)を持たせて世界と戦わせる」という【④ 劣後出資】の仕組みをまさにスタートさせた、その歴史的な瞬間を伝えているのです。


ちなみに、最近の国策の失敗事例について。

国策による巨額支援や投資(いわゆる産業政策)において、事前の目論見が外れて国民の血税や公的資金に大きな損失を与えた「代表的な失敗例」を挙げます。

今回ラピダスが挑んでいる半導体・ディスプレイ分野や、かつて国が主導したプロジェクトには、まさに「市場規律(緊張感)の喪失」「引き際(損切り)の誤り」によって巨額の損失を出した生々しい前例がいくつもあります。

1. ジャパンディスプレイ(JDI)の救済・再建未達

ラピダスを占う上で、最も頻繁に引き合いに出されるのがこの事例です。

  • 概要:ソニー、東芝、日立製作所の液晶ディスプレイ部門を統合し、「日の丸液晶」を守るべく2012年に誕生。政府系の官民ファンド「INCJ(旧産業革新機構)」が主導しました。

  • 投じられた資金:国側は累計で約4,000億円超の資金(出資や融資)を投入。

  • 失敗の理由と損失:スマートフォンの画面が液晶から有機EL(OLED)へシフトする世界的な技術潮流を読み違えたこと、また特定の巨大顧客(アップル)に依存しすぎたことで経営が迷走。度重なる追加支援(ゾンビ化)を行うも再建できず、最終的に中国・台湾の企業連合などの傘下に入ることになりました。

  • 結果:INCJはJDI株の売却を進めましたが、約1,500億〜1,800億円規模の公的資金が回収不能(損失)になったとされています。

ラピダスとの類似点: 「バラバラだった国内勢を国主導で1つにまとめ、巨額の公的資金を入れ、世界の巨人(サムスン等)に勝とうとした」という構図が、現在のラピダス(TSMC等に挑む)と酷似しているため、専門家から最も懸念されている前例です。

2. 三菱スペースジェット(旧MRJ)の撤退

航空機産業を日本の新たな「国策の柱」にしようとして挫折したケースです。

  • 概要:経済産業省が「民間航空機開発プロジェクト」を立ち上げ、三菱重工業主導で国産初のジェット旅客機(MRJ)の開発を目指しました。

  • 投じられた資金:国側から国費(補助金など)として約500億円が投じられました(三菱重工グループ全体では約1兆円の開発費を投入)。

  • 失敗の理由と損失:度重なる設計変更や安全認証(型式証明)の取得の遅れ、世界の航空需要の変化に対応できず、納入延期を6回繰り返した末に、2023年にプロジェクト自体の「完全撤退(中止)」が発表されました。

  • 結果:国が投じた補助金は成果を出せずに消失。三菱重工側も巨額の資産評価損を計上しました。

3. 農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の解散

農林水産省が所管していた官民ファンドの失敗例です。

  • 概要:農林漁業の「6次産業化(生産から加工・流通まで一体化して儲かる仕組み作り)」を支援するため、2013年に鳴り物入りで設立された国策ファンド。

  • 投じられた資金:政府から約300億円が出資されました。

  • 失敗の理由と損失:投資のプロではなく役所主導の甘い見通しで投資が行われた結果、投資先の倒産や経営不振が相次ぎました。累積赤字が膨らみ続け、「これ以上続けても赤字が広がるだけ」と判断され、最終的に投資回収を終えて解散に追い込まれました。

  • 結果:約120億円の赤字(損失)を出して幕を閉じました。

なぜこれらは失敗したのか?(共通する原因)

これらの代表例に共通しているのは、冒頭の研究員コメントや渡瀬氏の指摘にある以下の病理です。

  1. 市場規律の麻痺:「国がバックにいる(最後は国がなんとかしてくれる)」という甘えが経営陣や関係者に生じ、民間単体なら即座にストップがかかるような甘い事業計画がズルズルと継続してしまった。

  2. 損切りの号令が出ない:国が関わるプロジェクトは、失敗を認めると政治的責任を追及されるため、行政側も「次の追加支援で逆転できる」と言い訳を作り、ずるずると傷口を広げてしまう。

政府がラピダスへの支援を「補助金」から「(議決権を絞った)劣後出資」へシフトさせ、民間企業に厳しい目で精査(デューデリジェンス)させているのは、まさにこれらの国策の失敗の歴史から学び、「JDIやMRJの二の舞にだけは絶対にさせない」という強い警戒感の表れでもあります。

今回の法改正による「劣後出資」という手法は、これまでのバラマキ型補助金や、ゾンビ化を招いた国営企業型支援の反省に立ち、民間のプロによる「市場の規律」を極力残そうとした苦肉の策、あるいは一歩進んだ制度設計であると言えます。

しかし、どれだけ仕組みを洗練させたとしても、投資される原資が「国民の血税」であることに変わりはありません。JDIや三菱スペースジェット(旧MRJ)の苦い教訓を繰り返さないためには、民間企業が今まさにラピダスに対して行っているような、厳格な審査(デューデリジェンス)と客観的な数値目標、そして何よりも「失敗した時の引き際(損切り)」の基準が極めて重要になります。

渡瀬裕哉氏の指摘通り、国策プロジェクトには常に「納税者主権」の観点からの厳しい監視が必要です。巨額の公的資金が投じられる中、お上の頼みだからと緊張感を失うことなく、真に国益に適う形で「市場の規律」が機能し続けるか、厳しい注視が重要です。

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